ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
総合的学習の手法
ステップアップの工夫とヒント

第2回 メディア学習

既存の機器の活用とメディアに対する意識改革は欠かせない!

 

「総合的な学習の時間」では、生徒が各自で情報を収集・選択し、それに基づき自分なりの考えをまとめ、発信するといった「情報活用能力」を育てることも重要である。この力は決して一朝一夕には身につかないが、「総合的学習」のなかのどの段階でどう工夫すれば効果的に身につけられるのか。前号に引き続き、埼玉県北葛飾郡杉戸町立杉戸中学校の実践を例に、その工夫を考える。

発表場面まで見通した活動にするために

 資料収集の仕方、発表の仕方、情報機器の取り扱い方などを学ぶ時間を、杉戸中学校では「メディア学習」と名づけて、「総合的学習」のオリエンテーション(2時間)後の6時間で行っている。こうした学習をオリエンテーションのなかに含める学校もあるようだが、メディアについて学ぶ時間を別に確保したのは、どのような考えからか。同校の研究主任の田中健寿先生にうかがった。
 「一つは、スキル的なことは初めに習得させてしまおうという考えから。もう一つは、発表場面まで、学習の先を見通した活動ができるようにしようという考えからです。『発表』は、この総合的学習の目的ではありません。しかし、学習のなかの大きなステップと動機づけにはなっていると思うんですね。しかも、『何を』発表するのかと『どう』発表するのかということを考えないと、いい発表にはならない。それを常に考えながら学習を進めてほしいと思っています」 

課題として取り上げる題材にも工夫あり

 「メディア学習」では、 資料の収集法、レポートの作成法、 OHP・OHC(実物提示装置)の資料作成および機器の利用法、 インターネット・デジタルカメラの利用法、著作権、情報の利用の仕方の3点を学んでいく。
 「学校にある既存のもののなかで何が活用できるかなと考えたときに、OHPはやはり教員にとっても生徒にとっても扱いやすいものの1つではないかと思い、メディア学習の中に入れました。学校によってそろっている機器は違うと思いますが、『まず、校内にある機器を見直して使うようにする』ことが大切ですね」(田中先生)
 まず最初は各メディアの特性について講義が行われる。「どんな資料に価値があるのか」「その機器の長所や短所」などがオリジナルのワークシートにまとめられており、総合的学習のクラス(杉戸中では全校を異学年構成の7クラスに分けている)担当の先生方がそれを使って授業を進めていく。各クラスで同等の授業ができるよう、研究部でかなり細かい指導計画をつくり、それを先生方がそれぞれ消化し、授業を組み立てていく。
 講義のあとには必ず実習を行う。例えば、レポートの書き方を学んだあとには、ある文章を配布し、その文章をB5判1枚のレポートにまとめ上げるという課題をこなす。この課題には地域の環境問題などを意図的に取り上げている。そういう仕掛けをつくることで、レポート作成のスキルを身につけるとともに、「ふるさと」という同校の総合的学習のテーマ、また次からの課題解決学習へのなんらかの「気づき」を促しているのだ。

メディアに関する意識改革は教員から

 今年1月、授業を参観させていただいたときには、生徒たちは最終的な発表会のための資料作りをしていた。コンピュータ室ではプレゼンテーションソフト「パワーポイント」を自由に使いこなしている生徒の姿もあった。
 「コンピュータを使用して発表するのは、今の段階では1~2割でしょうか。発表会で上級生が使っているのを見て、次はあれをやってみようという感じになるようです。『発表会を通じての学びあい』は異学年構成の大きなメリットですね」(田中先生)
 各クラスを支援する教師集団には、コンピュータに慣れた先生が1人は入るように組織づくりをしているが、一から先生が教えるというよりも、生徒たちはお互いに教えあいながら、画面を見ては試行錯誤しつつスキルを身につけているようだ。
 「メディアに関する支援は、原則として、すべての先生がするという心構えで行っています。メディア機器の使用に習熟していない先生も、当然います。そういう先生には、とにかく使う機会をつくって使ってもらう。例えば、職員室にOHCを置いておき、教科のなかで実物を見せたりするときに『じゃあこれを持っていったら』と勧めたり、総合的学習に限らず、広く教科の授業でも使おうという意識で取り組んでいます。それと同時に、メディア機器というのは教員が授業の説明のためだけに使う道具ではなくて、生徒が学習過程で使う道具だという意識改革も必要ですね」
と、最後に田中先生。総合的学習のような課題解決型の学習にメディアの活用は不可欠、と考える同校では、引き続きメディア学習の充実を図っていくという。

▲コンピュータ室で発表用の資料を作成している生徒たち。デジタルカメラで事故の頻発する交差点を撮影し、分析・考察した結果をまとめている生徒も

  埼玉県北葛飾郡杉戸町立杉戸中学校
  〒345-0035 
  埼玉県北葛飾郡杉戸町内田1-5-35
  tel 0480-32-0132
  校長/岡野一雄先生

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