ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
総合的学習の手法
ステップアップの工夫とヒント

第3回 インタビューのスキル

総合的学習の「基礎・基本」はトライ・アンド・エラーの繰り返しで身につける!

 

「総合的な学習の時間」を進めるにあたって、さまざまな人々から直接情報を収集する「インタビュー」という手法は有効である。しかし、このインタビューのスキル(技能)修得を重点的に指導してきた学校は少ない。どのように指導すれば生徒たちに効果的に身につけさせることができるのか。熊本大学教育学部附属中学校では、そのインタビューのスキル修得について興味深い実践に取り組んでいる。

 熊本大学教育学部附属中学校では、「総合的な学習の時間」を「未来創造」と名づけ、「Ⅰ」から「Ⅲ」と学年が上がるごとにステップアップして、取り組んでいる。なかでも1年生が学ぶ「未来創造1」は総合的学習に必要なスキル、言うならば「総合的学習の『基礎・基本』」を身につけるねらいでカリキュラムが組まれている。
 そのなかでも特に注目したい取り組みが、「インタビュー」スキルの修得。大人でも難しいインタビューという情報収集技能を、どのように身につけさせるのか。
 「以前、事前学習をせずにぶっつけ本番のようにしてインタビューを行っていたときは、非常に上手な生徒もいれば全然できない生徒もいるという状態でした。でも、そのままで終わってしまっていたんです」
と、研究主任の松島孝司先生は話す。そこで、同校では最初はある程度の型を生徒に与えて練習させ、徐々にその型を取りはずす方式をとった。1学年の「総合的な学習の時間」を3つのブロックに分けて、プロジェクト1では友だちや先生にインタビューをしよう、というところから始まる。

 最初は決まった型を教える

 「最初は、必ずこの文型を使ってやりなさい、という型を教えます。それからメモの取り方の基本も教えます。そして、隣の席同士でインタビューの予行演習をします」
 とはいっても、クラスも新しく編成されたばかりなので、まだぎこちなさが残る。
 「これは、学級づくりとも絡めているんです。インタビューの内容は学級自慢コンクールというかたちで発表させますし、競争のようなスタイルも取り入れました」

 予行演習の相手を友だちから先生に発展させる

 次は、先生にインタビューに行く。時間は特に設定していない。休み時間や放課後を使う。内容も、「とにかく学級自慢のネタになるような内容を」というあまり難しくないものにした。インタビューの相手を友人から先生に移すことによって生徒たちの緊張感も高まり、外部の方へのインタビューへのよいウォーミングアップになるようだ。

 校外の人へのインタビューは、準備の時間を十分に

 プロジェクト2では、いよいよ校外の人物にインタビューに行く。いろいろな職種の人たちに話を聞いて、その人がどんな人なのかを報告するという内容だ。
 このときには、準備のための時間をしっかりととる。面会や取材のアポイントメントの取り方、インタビューの仕方などを学び、出かける前にインタビュー内容をグループで検討し、メモにまとめたり、質問事項を吟味したり。準備のための学習シートも用意されている。

 質問内容は教師が事前にチェックする

 「質問事項は教師側が確認します。こんなことをきけば、こんな答えが返ってきそうだということが少しでも見えてくる質問内容になるように指導します。しかし、実際はなかなか難しいですね。インタビューしに行って、逆にインタビューされて帰ってきたりとか(笑)」
 子どもたちに多い失敗は、ききたい質問だけを一問一答式にきくだけで話が広がっていかないことだ。この時点では満足できるほどの内容を得てくるグループのほうが少ない、と先生方の採点はからい。そのような生徒たちには、「相手が発した言葉に対して、必ず何か自分から新たな言葉を返してごらん」などと、細かいアドバイスもする。そのうえで、失敗したインタビュー相手にもう一度教師側で連絡をとり、再びチャレンジをさせることもあるそうだ。

 子どもが校外に出る際のシステムをつくる

 取材当日は、プロジェクト3の発表が行われていた。グループごとに仮説を設定し、アンケートやインタビューなども含めた資料からそれを検証した結果を発表するのだ。この段階では、どんな相手に何をインタビューするのかなどは、すべて生徒に任されている。先生による質問内容のチェックなども、意図的にゆるめる。もちろん、インタビューをしに校外に生徒が出向く際は、必ず申請用紙を書かせる。申請用紙は担当教員や校長などのチェックを通ったあと掲示され、各教員に周知させる。

 慣れてきたらマニュアル(型)をはずす

 ただし、学んだインタビューのマニュアル(型)にはもうこだわらず、いつ、だれに、何をきくのかから生徒たちが考えて計画を立てていく。
 「しっかりインタビューをしていると、プレゼンテーションの場でも、きちんと内容が自分の中に入っているんですね。自分が実際に行って、聞いて、考えてきたことだから、確信を持って発表できる。これが、インターネットや書籍だけで調べていたときは、質問されてもどこかピンとこないんですね。そういった意味で、直接情報を収集する手段として、インタビューをとても重要なスキルと位置づけています」

 場数を踏ませ、教師は側面から支援する

 「相手と目を合わせて相づちを打つということも最初は恥ずかしい。ロールプレイングのように、どうすれば相手が気持ちよく話せるかということを実際にやってみせたりもしたんですが、なかなか子どもたちには難しいようです。
 やはり場数を踏むことだと思います。どんなふうに成長しているのかは、聞いてきた内容から推察するしかないのですが、例えば今日、留学生からいろいろな話を聞いてきたグループの発表を聞いていると、紋切り型の質問だけでは聞けないようなことまで聞けていたと思います」
 ときにはつっけんどんな対応をされたと言って落ち込んで帰ってくるグループもある。それでも、満足する内容を得られるまで繰り返しチャレンジさせる。

 インタビューの技法を知るにはビジネス書が参考になる

 「インタビューの基本的な技法については、『ビジネスマンのための 図解「勉強の技術!」』(日本実業出版社)という書籍を参考に、中学生にもわかりやすいようにかみくだいて紹介しました。ビジネス書はずいぶん参考になると思います。あとは、やはり繰り返すことですかね」
と松島先生は締めくくった。

●同校が使用しているワークシート

  熊本大学教育学部附属中学校
  〒860-0081
  熊本県熊本市京町本丁5-12
  tel 096-355-0375
  校長/石原昌一先生

   

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