ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
総合的学習の手法
ステップアップの工夫とヒント

第6回 ポートフォリオ評価 1 教師のかかわり方

生徒の活動のすべてを「見取る」意識を持ち、見えない部分でのコーディネート役を担う!

 

現在進んでいる学校改革では、「評価法」の改革も大きなポイントとなっている。特に、生徒の学習のプロセスが重視されるようになって、注目されているのが、「ポートフォリオ評価」である。そこで今号と次号の2回にわたり、「総合的な学習の時間」にポートフォリオ評価を取り入れている千葉県八千代市立勝田台中学校を例に、そのメリットや、作成法、指導のポイントを探ってみる。まず、今号では「ポートフォリオ評価」における教師のかかわり方、意識などについて、同校の嶺岸秀一先生にうかがった。

*ポートフォリオ評価…学習活動において、学習のプロセスで使った資料、生徒の学習物(作文、レポート、作品、活動のようすがわかる写真など)をファイルに入れて保存する方法。生徒を多面的に見て評価し、その評価を授業に生かそうという方法である。

 生徒の活動のすべてを「見取る」、という姿勢を共通理解として持つ

 同校の「総合的な学習の時間」(以下、総合的学習)は2つの領域で進められている。進路学習を基本に、「生き方を学ぼう」というテーマで週2時間ずつ行っている特活型の「ALIVE TIME」(年間70時間)と、クロスカリキュラム的な教科型のもの(年間20時間)だ。ポートフォリオは、両領域で積極的に取り入れている。特に「ALIVE TIME」は、3年間を通じた学習計画が組まれており、ポートフォリオ評価も3年間を通して行われる。
 「『ALIVE TIME』では、宿泊学習や社会体験を通して、子どもたちがいろいろな人と出会う機会を設け、価値観に揺さぶりをかけるような学びを心がけています。あくまでもそれは1回きりの体験ではなく、例えば体験先の農家とも体験後もつながり続けたい。それから、行く前にそれぞれの生徒が考えた疑問が体験により解決されたり、また新たな疑問が生まれたり…というように、子どもたちの興味・関心の変化や価値観の変容が、学習を進めるにつれてどんどん起こるようなカリキュラムを意識しています」
 そのような多様な活動を記録し、評価することを考えたとき、評価方法は「ポートフォリオ評価」しか考えられなかったという。
 「そもそも、ポートフォリオというのは、資料や評価表などを挟み込んだ、このファイル(勝田台中ではA4のクリアファイルを使用)のことをいいますよね。確かに実物としてはそれがあるんだけれども、しかし教師が見なければいけないのは生徒自身の変容など、記録しにくいものだと思うんです。このファイルを手がかりに、その見えにくいものを含めた活動のすべてを『見取る』のだ、その姿勢の表れがこの評価法なんだと、最初に全教員で共通理解を持っています」
 では、その目に見えにくいものを「見取る」ために、どのような工夫がされているのだろうか。

 「色違いのカード」や「共通の構成」で生徒の関心の変化をつかむ

 総合的学習の初めには各自で課題を設定し、そのテーマをポートフォリオの最初のページに貼るように指導している。ただし、学習を進めるうちに課題を変えてもいっこうに構わない。変更した課題は色違いの紙に記入し、最初の課題の下に貼りつけていく。このように、ある程度共通の構成をポートフォリオに持たせれば、教師がそれを見る際の時間短縮になる。また、子どもの学習のようすもつかみやすい。
 「子どもは飽きることもありますし、テーマ(課題)に行き詰まることもしょっちゅうです。ですから、テーマの変更ももちろん『あり』。そうした変化をきちんと記録・保存することによって、子どもが何をもとに興味・関心を変えていくか、価値観を変えていくのかが読み取れます」

 ポートフォリオで生徒の学びの状況を確認しながら、適宜指導する

 毎回の学習で生徒が作成していくポートフォリオは、原則的にだれでも手に取れる場所に保管してあるので、教師は生徒の学習の進み具合を確認したり、コメントを付せんでつける作業を時間があるときに行う。
 「もちろん、毎時間とはいきません。『ALIVE TIME』は学年の教師全員でみていますから、学習計画のなかで、これは全員分必ず目を通すというタイミングを決めます。そして、各自がコメントを書き加えておいて、それをもとに面接を行うこともあります」
 面接は、活動が“旬”なときはまめに設け、そうでないときには定期相談的に、もちろん生徒からの申し出によっても行われる。「調べたいけれど手がかりがない」「テーマが重すぎる」「何をするのかわからなくなった」など、さまざまな生徒の悩みを整理し、アドバイスし、ときにはコーディネートも教師側で行う。

 生徒から見えないところで学習をコーディネートする

 生徒の活動時間中にみることのできる生徒数には限りがある。時間が始まる前にファイルにアドバイスを書き加えておいたり、生徒から取材の依頼があることを先方に連絡しておくなどの「事前の支援」、コーディネートもポートフォリオを見ながら行っていく。
 「これからの教師は、生徒から見えないところで支援をしておいて、授業はゆとりを持って行う、そういう方向を目指すべきではと思います。子どもが自分の力だけでやったんだ、と誇れるように、見えないところでの支援が必要ではないでしょうか」

 保護者からコメントをもらう場面も設定、評価に加わってもらう

 そのコーディネートの一例が、ポートフォリオに保護者からのコメントをもらう場面にも表れている。同校では、自己評価・友だちからの評価・教師からの評価だけでなく、保護者からも評価してもらう。体験学習後などタイミングを見計らって家庭に持ち帰らせ、保護者にも見てもらう。
 「保護者は、学校で子どもがどんな活動をしているのか見えないと不安になります。ポートフォリオを見れば、子どもの活動内容が一目瞭然だし、子どもが何を考えているのかがわかります。新たな発見もあるだろうし、保護者にとっても興味深いものなのは確か。ただ、子どもがそれを渡すときに単に『はい』って渡すだけではダメ。『先生たちだけでこの活動を評価することはできないから、コメントしてくれないかなって、先生が言ってたよ』と言って渡すんだぞ、と子どもたちに念を押します。そうすると保護者は必ずコメントを書いてくれます。そういう場面場面を想定してのアドバイスが重要ですね」
 「ポートフォリオ」をどうつくるか、よりも、「ポートフォリオ」を使ってどう指導をしていくのか、その共通理解が何より必要…という姿勢が伝わってきた。次号では、ポートフォリオで生徒の自己教育力・自己評価力をどう高めるかについてレポートする。

各自がポートフォリオのいちばん最初のページに貼る、テーマ設定のカード。途中変更した場合は色違いの紙を下に貼りつけていく。これは昨年度行われた国語科・社会科のクロス「総合」(テーマ“個人との出逢い、そして、自分探しの旅へ”)で使用したもの

 

  千葉県八千代市立勝田台中学校
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  校長/萩原康正先生

   

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