第7回 ポートフォリオ評価 2 生徒の評価力をどう高めるか
自己評価表と生徒同士が評価しあう場面の設定で、生徒の「評価力」をアップする!
このコーナー第6回では、千葉県八千代市立勝田台中学校を例に「ポートフォリオ評価」に教師がどうかかわっていくのか、その指導のポイントを探ってみた。しかし、一方で「ポートフォリオ評価」では、そのポートフォリオを作成する生徒自身の評価も重要なポイントである。そこで、今号では「ポートフォリオ」で生徒自身の評価力をどう高めていくかについて、引き続き同校の嶺岸秀一先生にうかがった。
*ポートフォリオ評価…学習活動において、学習のプロセスで使った資料、生徒の学習物(作文、レポート、作品、活動のようすがわかる写真など)をファイルに入れて保存する方法。生徒を多面的に見て評価し、その評価を授業に生かそうという方法である。
だれでも、いつも手に取れる場所に保管し、お互いに自由にコメントできる環境に
千葉県八千代市立勝田台中学校では、3年間を通して学習計画が組まれている「ALIVE TIME」=「総合的な学習の時間」(以下、総合的学習)を始める際に、生徒一人ひとりにA4判のクリアファイルを支給している。ポートフォリオとして、学習時間ごとの振り返り表や追究するテーマ、各自調べた資料や配られたプリントなどを挟み込むためだ。この4月から活動を始めた1年生のものを見せてもらったが、7月の時点ですでにファイル収納量の3分の2ほどのボリュームがあった。特に目をひかれたのが随所に貼ってある付せん。別々の筆跡でひと言ずつ、コメントが書かれている。
「ポートフォリオは各教室の決まった位置に保管されていて、ほかのクラスの生徒のものも自由に見ることができます。ほかの生徒がどんなふうにまとめているのかは自分の活動を振り返るきっかけになりますから。付せんを使ってどんどん意見を書いていいよ、と言うと生徒同士がお互い書いて貼ったりしていますね。そういった子どもたち同士の評価は、紙面だけではなく言葉でも行っています。『常に見られている』という緊張感で、子どもたちのポートフォリオに対する意識も前向きになります」(嶺岸先生)
ただし、このとき気をつけたいのが、保管してあるポートフォリオがなくなったり、いたずらされたりしないようにすることだという。
「そういうことがあると、公開に消極的になってしまうので、まず教師と生徒の間で契約というか確認をしていくことが大きいですね。ポートフォリオに限らず、総合的学習は教師の目の届かない所で活動する場面も出てくるので、自己評価力をつけながら、自己活用力や自己教育力をつける必要がありますね」(嶺岸先生)
「教師のための自己評価」にならないように、振り返り表を工夫する
生徒の自己評価力を育てるという点から同校が特に気をつけているのが、学習時間ごとの振り返り表である(下図参照)。
「評価の観点については、例えば、『今日の授業は意欲的にできましたか?』というようなストレートなきき方はできるだけやめようと働きかけています。そうきかれたときに、意欲的に活動していた生徒は、おそらくあまり高い自己評価はしないでしょう。一生懸命取り組む生徒ほど、自分に厳しいんですよ。意欲的にできなかった生徒ほど、これは教師が見るからといって、高い評価をしたりする。それでは意味がありません。『次にもっとやってみたいと思いましたか?』とか『今回わからなかった言葉がたくさん出てきましたか?』というきき方にしたいですね。わかったことが多かった生徒よりも、わからないことが出てきた生徒を意欲面で評価していきたいのです」(嶺岸先生)
また、先生から見た評価と自己評価にギャップのある生徒に注目するという。例えば、意欲的に取り組んでいるように見えるのに、極端に自己評価の低い生徒がいたとする。「自分で立てた計画通りに進まなかったからでは」などの仮説をもとに、面談などで「先生から見たらとても意欲的だけど…」とフォローし、正しく自己評価ができるように指導していくのだそうだ。
「私は1997年度にアメリカに行って、ポートフォリオを見たんですが、例えば『意欲的にできたか』を5段階で自己評価させるようなものは、一つもありませんでした。日本は自己評価を、どこかで教師側の評価に使おうと考えてしまう傾向があるのかもしれませんね」(嶺岸先生)
お互いを繰り返し評価することで、ほめ方・批評の仕方を身につけさせる
また、同校ではそういった自己評価とは別に、生徒同士が互いを評価する場面もできるだけ設定するよう心がけている。
「『お互いに評価しよう』と言うと、だいたい生徒はお互いをほめますね。それも、ただ『よかった』と漠然とほめるか、『声の大きさがよかった』と方法をほめるか、どちらかなんですよ。そうではなくて、『すごく深いところまで調べられていてよい』とか『自分が気づかなかった視点を持っていて素晴らしい』といったように、内容に入っていく評価ができるようにしたい。また、マイナスの評価をすることにたじろいでしまうんですね。だから、『この点は改善したほうがいい』ときちんと伝えられるように、そこは総合的学習以外の場面でも、ディベートを取り入れたりして、積極的に指導をしています」(嶺岸先生)
振り返り、改善するというステップを活動のなかに取り入れる
「改善」という言葉が出てきたが、同校ではこの「改善」を総合的学習のキーワードの一つだと考えている。
「『Plan-Do-See』と言われますよね。計画して、実行して、反省する。けれども、総合的学習において、大切なのは、それらの工程につけ加えて、『Improvement(改善)』なんだと思います。『Plan-Do-See-Improvement』ですね。自分の心と頭のフィルター、それがいわば自己評価でもあり、他人から得た評価について考えてみることだと思うんですが、それを通しての改善は欠かせないものだと思います。その改善が柔軟に許されるところが、総合的学習のだいご味ではないでしょうか。だからこそ、改善の跡、学習の変化の跡がきちんと残されるポートフォリオが必要なのだと思います。教師はその変化を見取っていけばいい。3年間を通して1冊のポートフォリオができたとき、それはきっと生徒にとってかけがえのない財産になるはず。そう信じて総合的学習に取り組んでいます」(嶺岸先生)
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▲同校で使用している評価表の例
(資料提供/同校) |
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