第8回 外部講師の登用
問われるのは、教師の「コーディネート力」。
綿密な打ち合わせと授業時の積極的な介入で、最大の効果が得られる!
学校外からゲストを招いての授業も増えつつある「総合的な学習の時間」(以下、総合的学習)。しかし、「期待ほどの効果が得られなかった」「ただ話をしてもらうだけで終わってしまった」ということもあるようだ。そこで、「学校支援ボランティアとともに創る学校教育」を研究テーマとして、積極的に外部講師との授業づくりに取り組んでいる愛知県小牧市立小牧中学校の先生方に、外部講師を登用する授業のつくり方のポイントについてきいてみた。
まず、「授業計画」ありき。どんな場面でどんな人に来てほしいのかを明確に
小牧中学校の外部講師の登用は、「まず企画(=授業計画)ありき」である。校区内にこういう面白い人がいる、では来校してもらい話をしてもらおう…というような、「まず人ありき」の授業づくりとはスタートが違う。
「まず、教師の側で授業の流れをつくります。外部講師を依頼するのは、そのうえで、われわれが授業をするよりも、実際にそれを専門としている企業の方とか、実際に体験をしていらっしゃる方に来ていただいたほうがよいと判断したときですね」
と話すのは、同校の永田春季先生。
同校は1学年6クラスの大規模校。外部講師を依頼する前に、まず担当教師6人でどんな授業にするのかのイメージをきちんとつくる。
「1つの曲を作り上げるようなものですね。メロディーをつくっていって、サビの部分とか、全員に必ず押さえさせたいところを確認する。一方で、アドリブというか、各担当教師が自由に使える部分をつくって、そこに企業の方などに入ってもらう感じ。例えば、総合的学習のスキルを身につけさせたくて、『電話のかけ方』を取り上げる。そのためには、実際に仕事でよく電話を使う、ホテルのフロントの方とか企業の受け付けの方に来てもらいたい。しかも、生徒たちに必要なのは取材のアポイントメントを取るための電話のかけ方だから、そこに焦点を絞って教えてもらおう、と」(永田先生)
授業をプロデュースするという立場で、ここで、こんな人に来てほしいというはっきりとしたイメージを各自が持って、講師を探していく。「あなたに来てほしい、そしてこういうことをしてほしいのです」と焦点をしぼって頼めば、ほとんどの企業で好意的に対応してもらえるのだそうだ。
必ずフェイス・トゥー・フェイスで。講師との打ち合わせが授業を決める
講師への打診が済んだら、来校してもらう前に必ず会って打ち合わせをする。実は、ある団体に講師をお願いして-、その代表者との打ち合わせだけで授業に臨んだこともあったそうだが、それだとやはりうまくいかなかった。教務主任の木村芳博先生はこう話す。
「流れはそうやって代表の方に会って…というふうでもいいのですが、最終的には担任と実際に担当する講師が打ち合わせをしなくては、なかなかよい実践にはならないですね」
それは、「どういう授業にしたいのか」に関して、外部講師と担任との間でイメージのずれが起こってくるためだ。
「まず、総合的学習とは何かを説明して、次に授業の流れを説明し、『この部分のここをお願いします』となります。そこまで理解してもらうのにだいぶかかりますよ。簡単にはわかってもらえないです。でも、これをしないと、講師の方が自分の思いだけで授業を進めてしまって、結果として、授業をのっとられてしまう。当初意図した授業と異なったものになってしまうのです」(永田先生)
講師側も、「これを伝えたい」「こういう授業をしたい」という思いを持っているが、それが学校側のねらいとずれるとお互い残念な思いをすることになる。一方で、こちらの計画以上のプランを提案してくれることもあり、その場合はそのあたりを詰めていく。少しずつ「こういう授業にしよう」とお互いの授業のイメージが重なってくる。そうなれば安心して授業に臨めるという。
外部講師の授業での教師の役割は「ツッコミ」。どんどん介入して授業を演出する
だが、これだけの打ち合わせをしても、授業が思い通りに進むことは少ない。講師は教えることに慣れていないため、予定した時間配分がずれていったり、つい専門用語を使ってしまったり、本題からずれたりもする。そこで担当教師はうまく介入し、軌道を修正していく。
「『10分間話をしてください』とお任せしても、実際はお任せではないのです。子どもを見ていて、『わからない』というようすが見えたら、『今の言葉の意味は?』と授業を止めてきいたりもします。立つ位置もポイントなんです。講師に授業を引き継いだときに、それまでの2人の位置が入れ替わるだけではダメですね。黒板に講師の話のまとめを板書したり、生徒の表情や手元を見にいったりする。そして、授業の目的に合っているか、生徒の反応はどうかという両方の視点から授業のコーディネートをしていきます。話が沈んでいるなと思ったら盛り上げたり、講師と掛け合いをしたり…1人で授業するときの倍以上の神経を使いますね」(木村先生)
「だから、打ち合わせの段階でこちらの本音を伝えて、人間性を伝えて、関係をつくっておくことがとても大切になるんです」(永田先生)
「ツッコミ」のタイミングは、どう計っているのだろうか。
「それは、早めがいいですね。自分が持っている授業のイメージ、流れからそれ始めたと思ったらすぐ介入するのがいいのです。専門的な話に入り込んだりすると、まず止められないですから」(永田先生)
講師の方と授業のイメージを共有していれば、このように相手の話をさえぎることもあまり躊躇せずにできる。“教師は授業のプロ、講師はその道のプロ”というように、お互いを認め合う姿勢を持ち、役割をきちんと分担するのが成功のコツのようだ。
「例として挙げた『電話のかけ方』でも、やはり講師として企業の方に来てもらえてよかったですね。電話は、相手が見えないから、声だけ、言葉だけで自分のイメージが全部伝わってしまう。企業なら、1本の電話で商談が白紙に戻ったりもします。それを切実に感じている方の言葉と動作ですし、実際にその方々の職場に生徒が電話をかけて、それを評価してもらったりもしましたから、新鮮で緊張感のある授業になりましたね」(永田先生)
教師は、その授業のプロデューサーの姿勢で
同校には、「失敗してもいいから、どんどん新しいことに取り組んでみよう」という雰囲気があり、実際に外部講師の登用に関しても、失敗を積み重ねてこのようなかたちができてきたのだという(この小牧中の実践は、『正門からどうぞ-学校をひらく-』<問合せ先:tel 052-931-9321正文館書店>にまとめられている)。
「講師に任せっきりではダメですね。われわれが何回言うよりも、講師の方が1回言うことのほうが影響力が大きい。だから、どしどし取り入れてもらいたいと思います。失敗は次に生かす。そういう姿勢でね。とにかく、教師のほうで『授業をプロデュースする』という意識を持つのが大切だと思います」
と永田先生はしめくくった。
愛知県小牧市立小牧中学校
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tel 0568-77-6321
校長/野々部 智先生
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