ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
総合的学習の手法
ステップアップの工夫とヒント

第9回 生徒のプレゼンテーション力の高め方

「よいプレゼンとは何か」に気づかせる刺激と、
発表を生徒自身の力で磨き上げる仕組みで、プレゼンテーション力をアップ!

 

学校現場では耳慣れなかった「プレゼンテーション」という言葉を最近よく耳にする。「総合的な学習の時間」(以下、総合的学習)を実施するにあたり、そのプログラムのなかに「追究した課題をまとめて発表する」ことを組み込んでいる学校も少なくないからだろう。では、この「プレゼンテーション」(以下、プレゼン)の力は、どのようにして高めていけばいいのか。第8回に引き続き、愛知県小牧市立小牧中学校を例に考えてみる。

 まずは「プレゼンテーション」に親しませる

 2001年11月に行われた同校の研究発表会の前半では、各研究テーマに合わせ、先生方がそれぞれの教室でプレゼンを行うという形式をとっていたが、先生方に交じって生徒の代表も1つのブース(教室)を受け持っていた。自分たちの経験した学びを他校の先生方の前で堂々と発表する代表生徒たち。ユーモアや即興を交えて、臨機応変にはきはきと発表している姿が印象的だった。どのような指導で、このようなプレゼンテーション力を持った生徒が育っているのだろうか。同校の木村芳博先生、永田春季先生におききした。
 「まずいろいろな活動場面で、生徒たちにプレゼンというものを見せ、親しませていきました。本校では、学校行事や生徒会行事のなかで月1、2回はそういう場面があります。例えば、新入生を迎えた生徒会主催の歓迎会で、生徒会がコンピュータとプロジェクタを用いて先生の紹介をしたりね。こんなことができるんだ、という興味・関心を持たせていくのが一つですね」(永田先生)

 基礎的スキルを身につけ、実際にコンピュータを使ってプレゼン制作

 それとともに、1年の1学期にコンピュータの基礎的スキルを技術科で学習し、その段階で生徒全員が使える状態にした。そして1年生の後半、総合的学習「『創』の時間」で行った取材活動を素材に、コンピュータを用いたプレゼン制作に取り組んだ。いうまでもないが、「コンピュータのプレゼン・ソフトがうまく使える=プレゼンがうまくできる」わけではない。実際に始めてみると、生徒は技術的なことを含め、何をどうしていいかよくわからない、という状態になったという。そこで先生方は、プレゼン・ソフトを普段用いて営業活動をしている企業の方に授業に加わってもらうことにした(同校では、外部講師の登用を積極的に行っている。第8回参照)。

 「よいプレゼンとは何か」を生徒たちが気づいていけるような授業づくりを

 「初めは、プレゼン制作に取り組む最初の段階で外部の方に来ていただこうとしていたんです。でも、教師間で話をするうちに、少し取り組んで、生徒たちに悩みが出てきたときに来ていただくのがいいのではないかということになって…。結果的には成功でした。その授業後の生徒たちの意欲がまったく違いましたから。行き詰まっていたからこそ、切実に受けとめたんでしょうね」(永田先生)
 外部講師が参加した授業では、先生方がつくった「よくないプレゼン制作の見本」をもとに講師に話をしてもらった。
 「文字が小さかったり、写真が変に重なっていたり、文章がだらだら続いていたり…ほかにも、陥りやすい欠点を含んだプレゼンをわざと作って、生徒に悪いところを指摘させ、それを聞いた企業の方にコメントをいただいたんです。どの方もおっしゃっていたのは、『シンプルがいちばん』ということ。『伝えたいことは何か』『それが見る人に伝わるかどうか』をいちばんに考えなければいけない、という大切な視点を学んだことが何よりの収穫でした。シンプルとは、見たり聞いたりする側にとってわかりやすいということ。だれに、何を伝えたいのか。技術的には稚拙でも、伝えたい思いがはっきり感じられるプレゼンがよいプレゼンだと、生徒たちも気づいたんですね。それからは目の色を変えてプレゼン制作に取り組みました」(木村先生)

 クラス全員で代表生徒のプレゼンを磨き上げることで、さらによいプレゼンに

 同校のプレゼンへの取り組ませ方のもう一つの特徴は、クラス発表・学年発表・地域での発表と3段階を設け、代表生徒たちのプレゼンをクラスの生徒全員で「磨き上げる」という点にある。各クラスには4人ひと組の班が9つあり、まずはクラス内でプレゼンを行い、代表班を決める。
 「4人編成のチームをつくったのもよかったかもしれません。見ていますと、コンピュータ室へ行ってプレゼン原稿を作るのはだいたい1人ですね。あとの3人はスピーチの原稿をつくったり、ストーリーをつくったり、パフォーマンスを考えたり。話すのが得意な生徒が発表を担当するし、コンピュータの得意な生徒はそれを生かす。そういう分業が、しだいにできてきます」(永田先生)
 学年発表の代表に選ばれた班のプレゼンは、クラス全員で改善点を指摘し、よりよいものにしていく時間をとる。先生方は、選ばれた班以外の生徒は他人事だと受けとめてしらけた雰囲気になるかと危惧したそうだが、予想に反してこの時間がいちばん盛り上がったのだという。
 「やっぱり、外部の方に来ていただいた時間が効いていたんですね。同じ刺激を受けても、子どもたちはそれぞれこだわる箇所が違うんです」(木村先生)
 話し方にこだわる班、原稿の見せ方にこだわる班、進行のタイミングにこだわる班…やはり、自分たちがこだわったところは、ほかの班の発表でも気になる。だから生徒たちは自分たちなりの視点で改善を提案していった。
 「みんなで代表班のプレゼンを見ながら、ここはおかしいとか、ここはちょっと出が早いとか、遅いとか長いとか短いとか、そのカットはいらない、とかそういうのがどんどん出てきました」(永田先生)

 自分の意見が入っているからこそ、他人事ではなく発表に聞き入る

 真剣な指摘だからこそ、それを受ける代表生徒側も熱が入る。次の発表が迫るなかで、時間を見つけては手直しをしていたそうだ。そして、「みんなで手をかけて直した」という意識があるので、学年発表会に参加する態度も違っていたという。自分が発表しない子も、自分の指摘がどう反映されているのか、他のクラスは自分のクラスに比べてどうだろう、という目で真剣に見ていた。自分が加わった発表が、地域での発表会に選ばれるかどうかにも興味を持っていたのだろう。
 学年発表会後にも、さらに代表生徒のプレゼンを「磨き上げ」て臨んだ地域での発表会では、発表生徒たちの「まかせなさい」という堂々とした顔が印象的だったそうだ。「目標をどう持たせるか、それに向かって全員をどうかかわらせるかが大切」だと改めて感じた取り組みになったという。
 最後に、今後の課題などについてきいてみた。
「年に1度大きな発表を、というよりも、いろいろな場面で発表する機会をつくりたいですね。それに、時間の都合などもあるけれど、できるだけ多くの班を全体会で発表させたい。また、寸劇や掛け合いなどのパフォーマンスも取り入れていますが、例えばミュージカルっぽくできないかな、とかいろいろと考えているところなのです」(木村先生)

  愛知県小牧市立小牧中学校
  〒485-0046
  愛知県小牧市堀の内4丁目30番地
  tel 0568-77-6321
  校長/野々部 智先生

   

© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.