ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
総合的学習の手法
ステップアップの工夫とヒント

第10回 課題設定・追究の工夫 …ウェビングの手法を用いて…

興味の中心と課題追究の見通しを一枚の紙の上で確認することで、
追究活動でのつまずきを回避!

 

「総合的な学習の時間」(以下、総合的学習)において多く取り入れられている課題追究型の学び。しかし、一度設定した課題がなかなか深まらなかったり、設定自体でつまずいてしまったりすることもあるという。どうすれば、生徒が興味を持って、ある程度の期間追究することができる課題が設定できるのか。そこで、課題設定・追究について興味深い取り組みをしている静岡大学教育学部附属浜松中学校をレポートする。

 年度当初のガイダンスで、まず「なんのために学ぶのか」を明確に

 静岡大学教育学部附属浜松中学校では、「学びの総合化・融合化」が「生きる力」をはぐくむものだととらえ、各教科と総合的学習を互いに機能し合わせて、「課題追究」に重点をおいた実践に取り組んでいる。2001年10月まで研究部長を務めた小笠原卓也先生はこう話す。
 「本校で大事にしているのは、『なんのために学ぶのか』という学びの意義です。それを生徒たちに徹底するために、まず、なんのためにどういう学びをするのかというガイダンスを年度初めに行います。そこで、『総合的学習は、教科で学ぶことを総合化・融合化する、体験的に、五感を通じて学ぶ学習なんだ』ということを明確にします」
 3年間の共通テーマとして設定されているのは、「もの・こと・生命のかかわりあいを探り、自己の生き方について考えよう」というものだ。
 「課題追究型の学習のポイントになるのは、やはり、いかに課題を立てさせるかですね。そこで、教師の願いにもとづき大きな方向性を示すのが共通テーマです。それを納得、実感させる、その気にさせることから始まります。共通テーマというのは要するに狙いなんですね。その学習で何を目指すのかということを教師自身がちゃんと分析して持っていることが重要です。それがないと、『なんでもあり』になってしまいますから」(小笠原先生)

 総合的学習の基礎的スキルとして、「ウェビング」の手法を学ぶ

 このガイダンスのあと、総合的学習の基礎・基本を学ぶための講座が開かれる。「聞き方・話し方」「電話のかけ方」「インターネット活用法」などだ。耳慣れない言葉だと思うかもしれないが、「ウェビング」も、こうした講座で学ぶ基礎・基本の1つ。
 ウェビングの「ウェブ」とはクモの巣という意味。ちょうどクモが巣を作るように1つのキーワードからつながりのあることがらをつなげたり、調べたいことをキーワードとしてその解決のために必要な事柄や方策を考えてつなげたりして、網のように広げていく手法のことを言う。大きくくくれば発想法・思考法の技術であり、作業プロセスのなかで子どもたちが主体的に課題をつくっていけるような、そんな流れを支援するものだ(下図参照)。

 共通テーマを提示し、ウェビングの手法を生かして課題設定

 実際に「ウェビング」手法を用いて課題設定をしていくときも、初めての経験なので、一から課題をつくることは難しい。そこで、「身近な地域で私たちの生活を支えているものを探ろう」という共通テーマを教師側が提示。ここでは、ある程度身近でイメージしやすいものをうまく与えるのがポイントだ。
 「まず、共通テーマにかかわる材料探しから始まります。『生活を支えているもの』と言えば『産業だ』『水道だ』など自由に連想してどんどんネタを生徒たちは出します。次に、それを黒板に書き出します。このとき、教師がある程度のカテゴリーに分類します。大まかにどのあたりに自分の興味があるのかを自覚させるのです。その後、各自が第1回目のウェビングをかけます。関連あるものをどんどんつなげていくんですね。つながり探しということになりますか。こうしてでき上がったものがイメージマップとなります」(小笠原先生)

 図示することで自分の関心の中心がわかり、共通テーマに至る方法をイメージできる

 最初はとまどいもあるが、先輩の実例を見せたりしているうちにやり方がつかめるようだ。やがて子どもたちは夢中になる。思わぬものにつながっていく意外性、自分で考えて作業していくなかで新しい関係を発見する新鮮さ。頭の中だけでは描けないような広い世界、全体像が見えてくる。時間をかけただけ手応えのあるものになる。こうしてできたイメージマップを生徒同士で見せ合って、お互い思いついたものを付け加えていくこともある。
  「それを見ながら自分のテーマを決めます。だいたいつながりの中心になっているものが興味の中心ですので、それを真ん中において、2回目のウェビングをかけます。ここではつながりだけではなくて、自分のテーマに迫るための方法もあればどんどん書いてつなげなさいと指導します。そうすると、追究計画の見通しが、ある程度持てるようになるんですね」
 すぐに追究が終わってしまうような危険がある課題や、見通しを持てないような課題を設定する危険が少なくなり、また、教師側にもその生徒のしたいことが一目瞭然になるという利点があるという。

 いろいろなものを「つなげる」意識が芽生えることも利点の1つ

 同校は、総合的学習だけでなく、各教科の課題追究型の学習においても「ウェビング」の手法を取り入れている。こうして何度も繰り返し行うことにより、次第に「もの」と「もの」、または「もの」と「ひと」、「ひと」と「ひと」を結びつけて考えることができるようになり、同校が目指す「もの・こと・生命のかかわりあいを探り、…」という共通テーマへ戻っていくことにもなるという。「ウェビング」を丸々実践に取り入れなくとも、そのなかの意識・課題設定の際に気をつけているポイントなどは、他校の取り組みに応用できそうだ。

  静岡大学教育学部附属浜松中学校
  〒432-8012
  静岡県浜松市布橋三丁目2番2号
  tel 053-456-1331
  校長/山本章先生

   

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