ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
チーム・ティーチングの手法
ステップアップの工夫とヒント

第1回 同教科T・T

同教科T・Tにより、各教科の教員チームの総合力を高める!

 

新学習指導要領の実施にともない、注目され導入されつつあるものの1つが、チーム・ティーチング(以下、T・T)という指導スタイル。しかし、従来の「1人で1クラスを見る」という感覚との違いに戸惑いを感じたり、思うように効果が得られなかったりすることもあると聞く。そこで2002年度は、このT・Tという指導スタイルの効果を高める工夫やヒントを、実践校の取り組みから抽出していきたい。まず、第1回は、1993年度からT・Tに積極的に取り組んでいる岐阜県恵那市立恵那西中学校の実践から、「同教科T・T」についてレポートする。

 「常設T・T」で求められるのは「チームワークと適切な役割分担」

 「まず、『なぜT・Tか』というと、生徒1人ひとりをもっと大事に見ていくためにはどんな方法があるのか、ということを考えたときに、T・Tに大きな可能性を感じたからです。ねらいは、子どもたち1人ひとりの個性に応じ、1人ひとりに力をつけるということ。まずは、1人ひとりに目を向けた指導が成り立つことを目指して始めました」
と恵那市立恵那西中学校の岡田庄二先生は話す。
 1993年度に理科から始められたT・Tの実践は、2年後には他教科にも広げられた。また、週時程のなかに組み込まれて日常的に実施する「常設のT・T」(おもに同教科内のT・T)と、外部講師などと適時に実施する「特設のT・T」が並行して行われた。特に「常設のT・T」は年間を通して1つのクラスの授業を複数の教員が担当するので、担当教員のチームワークと適切な役割分担が求められる。

 「教科部会の時間を確保」し、指導案の検討と情報交換を密にする

 「T・Tというと、どうしてもどんな授業をするのかというところに目が行きがちですが、ほかにも考えなければいけないことが多くあります。なかでもT・Tを行う教員同士の打ち合わせの時間の確保は重要なポイントです」(岡田先生)
 恵那西中の工夫の1つは、授業時間内にそれができるよう、週ひとコマの教科部会を時間割に組み入れたこと。それにより毎週少なくとも1回、それ以外に放課後に月2回、合わせて月に6回ほどの教科部会が行える。もちろん、それだけでは足りなくて、各担当同士で打ち合わせの時間をなんとか捻出することもあるが、教科内で指導案を検討し、アドバイスしあう時間として確保している。
 「教員全員で取り組むということも大事ですね。確かに持ち時間数が増えるので大変ですが、いいところも絶対にあるわけで、1年間続けるとそのよさが見えてくる。また、ペアを組むもう1人の教員から学ぶところも多く、指導力の向上が実感できるんでしょうね。本校の場合も、『してみてよかった、来年はもっとしよう』というふうに取り組みが進んでいきました」(岡田先生)
 「だれとだれが組むか」ということは、時間割編成担当にあらかじめ希望を伝えておくそうだが、必ずしも希望通りにはならない。しかし、意外な組み合わせがかえってよい効果をもたらすこともあったという。なお、同校では、主担当の先生が1時間の授業の流れをつくり、副担当の先生にそれを渡して要点を説明するというのが基本的な方法だ。どちらかがリードして、もう1人がサポートするという役割になる(授業中にその立場が逆転することもある)。

 「T・T指導パターンの類型化」により、授業づくりをスムーズに行う

 また、恵那西中では、図のようなT・T指導のパターンがしだいにかたちづくられ、類型化されていった。これは、指導のねらいや学習形態に応じたさまざまな授業づくりをスムーズに行うのに役立った。
 「大切なのは『授業のねらいにどの型が合っているか』ということです。例えば、英語の授業で子どもに会話のモデルを示すときには、教員2人が対話をします。これが協力型ですね。1人が教壇から全体指導をし、もう1人は教室内を回って個別に指導をするのは分担型になります」(岡田先生)
 同じ授業時間内でも、ある場面では協力型になり、ある場面では分担型になることが少なくない。ポイントは、学習のねらいがどのパターンにあてはまるのかということを意識しながらプランをつくっていくこと、またあるパターンに偏らないようにすることである。
 「教員によって、どうしても得意・不得意のパターンがあるんですね。それをどうやって打破していくかも課題の1つです。それは、お互いのよさを生かすような取り組みを続けていくなかで克服できると思いますし、教員自身の指導力向上につながっていくのではないかと思います」(岡田先生)

 授業の基盤は学級。「基礎はあくまでも学級経営」だと認識する

 最後に、岡田先生に現在の課題についてきいてみた。
 「T・Tの課題としては、評価の仕方があります。『関心・意欲・態度をどうとらえるか』ということです。それをどう共通の目で見るか、どう幅を持たせるか、揃えていくか、それを考えていかなければなりません」
 恵那西中では、実践を続けてきたことにより、在籍する生徒全員がなんらかのかたちでT・T指導を受け、先生方もほとんどがT・T指導に携わってきたことになる。それは教科から選択教科、「総合的な学習の時間」へと導入され、現在では少人数指導へと発展してきた。
 少人数指導は教員1人あたりの生徒数を減らして、より丁寧な指導を行うという意味で、T・Tとの共通点も多い。しかし、学級の枠を超えて習熟度別に集団を作るなどの点では新たな展開がある。
 「それには学級の基盤がしっかりしていなければなりません。子どもたちの学級への帰属意識が薄いと、学級を超えた学習集団になることがさらにその意識を薄め、結果的にどの授業でもまとまりを失い、学習に集中できなくなる危険性があります。一斉授業、T・T、少人数指導には、それぞれいい点があり、これからはそれをどんなバランスで組み立てていくかがポイントになると思いますが、その基礎になるのはあくまで学級経営であり、どんな学習集団でも生徒たちがきちんと学習に取り組めるように、落ち着いた、土台のしっかりしたクラスづくりが必要だということを改めて実感しています」  (岡田先生)

図 T・T指導のパターン

 協力型
  1. 主たる教師とアシスタント的教師とで協力して指導する
  2. 授業全体の指揮をとる教師と、取り出し指導や場面的にゲストとして登場する教師とで協力して指導する
  3. 授業を進める教師に対して、他の教師が質問をしたり、対立の立場で反論をしたりしながら、協力して指導する
 分担型
  1. 指導対象の生徒数を機械的に半分にし、分担して指導する
  2. 生徒のつまずきや習熟度等、生徒のタイプや指導内容について役割を分担して指導する
  3. 課題解決学習や発展課題学習等、学習内容や学習課題に応じて役割を分担して指導する

 
  岐阜県恵那市立恵那西中学校
  〒509-7205
  岐阜県恵那市長島町中野1269-261
  tel 0573-25-5245
  校長/三浦忠信先生

   

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