ベネッセ教育総合研究所 進研ニュース
2002.07
チーム・ティーチングの手法
ステップアップの工夫とヒント

第2回 異教科T・T

ランデヴー型指導でテーマを深めていく異教科T・Tの実践

 

チーム・ティーチング(以下T・T)のさまざまな実践を取り上げ、T・Tという指導スタイルの効果を高める工夫やヒントを探っていくこのコーナー。第2回では、香川大学教育学部附属坂出中学校の取り組みをもとに、「異教科T・T」について考えてみる。

 テーマづくりのためには日常的なメモが不可欠。
  他教科を対象にマトリックス表を作成する

 香川大学教育学部附属坂出中学校の異教科T・Tへの取り組みは、合科的な自由学習として1991年度からスタートした。その出発点について片岡孝暢教頭先生はこう話す。
 「子どもが持つ課題・テーマが1教科の枠に収まるものであれば、その教科の教師が単独で指導すればいい。ところが、私たちが日常生活のなかで出合う課題は、学問領域をまたがってさまざまな要素を含んでいることが多いのです。子どもたちに自主的に課題をつくらせると、自然と教科の枠を超えるようなものになります。それをなんとか支援してやりたい。ならば、これをカリキュラムのなかに位置づけ、教科を横断してテーマを設定し、異教科の教師2人が組んで指導していこう、ということから始まりました」(片岡先生、以下も)
 坂出中の異教科T・Tは8つの講座から構成され、年間を通じて全18コマ(1コマ100分の時間モジュール制)になる。年度当初にガイダンスを行い、講座ごとの希望者を募る。ここでポイントになるのは、いかに教師側が教科を組み合わせて、生徒にとって興味深いテーマを設定できるかだ。実際のテーマ設定にあたっては、各教師が自分の教科と他教科の内容をクロスさせ、どのテーマでどんなことができるかを8教科それぞれに考えて、マトリックス表(下の表参照)を作成する。
 「こんなテーマだったら教師も意欲的に興味を持って勉強できる、これだったら既製の教材がなくても自分で教材研究できる、子どもと一緒になって楽しめる、というテーマを考えていくんですね。アイディアはなんぼでも出てきますよ。あなたの授業と組めばあんなことができる、こんなこともできると。常にそういう意識を持ち、普段からそういう目で物事を見て、何か面白いものがあったらメモするというような習慣づくりは必要でしょうね」

 異教科T・Tの授業の進め方は「ランデヴー型」が効果的

 社会科担当の片岡先生が国語科と組んで取り組んだのが「『坊っちゃん』と一緒に明治再発見」というテーマの講座だ。
 「社会科で明治時代を学ぶ際には、どうしても政治が中心になるのですが、実際には生活史が面白い。一方、国語科では夏目漱石の『坊っちゃん』をもう少し深めて読んでみたいということがありました。そこで、『坊っちゃん』に出てくる服装やお金のことなどを社会科的なアプローチで深めていこうと考えたのです」
 「文学作品を読むことで歴史が見えてくる。歴史を知ることでさらに豊かな〝読み″ができる」ということが学べる。その体験を通じて、また何か別の作品に出合ったときに、そういう深め方ができるだろう、というねらいもある。
 「授業の進め方は、ランデヴー型と呼んでいるのですが、基本的に2名の教師がお互いに同じような役割を持ってやりとりをしながら進めていくというスタイルです。1人の教師が『主』でもう1人が『副』になるという主副型や、学習集団を分けてそれぞれの教師が指導する分散型もありますが、異教科T・Tにおいては、このランデヴー型が、教科の持ち味とその先生の持ち味や個性の組み合わせを効果的に発揮させると思います」
 この講座では、実際にバスをチャーターして松山市まで行った。みんなで町を歩き、道後温泉につかり、「坊っちゃん電車」に乗った。明治生まれの人に子どものころの体験もきいた。もちろんみんなで分担して交通のことや服装のことなども調べた。
 発表の場は文化祭。ステージで『坊っちゃん』の一場面を寸劇で再現しながらOHPで解説を加え、学習の成果を全校に向けて発表した。

 異学年合同授業で教師の指導を補完するかたちが自然とつくられる

 これまで、坂出中ではこの異教科T・Tの講座を、各教科の持ち時間から拠出したり、学校裁量の時間、選択教科の時間、「総合的な学習の時間」(以下、「総合的学習」)など、さまざまな時間を活用してやりくりしてきた。今年度は、総合的学習の3領域の1つとしての「さぬき未来学」のなかに、「文化」「自然」という視点から、各講座ごとにテーマをつくり、合科的な指導として位置づける。1年生では学び方、情報リテラシーを学び、2、3年生は異学年合同でこうした異教科T・Tの講座に取り組んでいく。
 「生徒の興味・関心を引き出すためには、やはりテーマが重要です。これは教師も同じです。教師自身がわくわくしてくるようなテーマには、やはり子どもたちも関心を示すんですね。子どもたちは本質的に、課題が深まっていくものを求めているんですよ。それから、違ったタイプの先生が一緒に授業を行うということも子どもたちにとっては刺激的なようです。私自身、この異教科T・Tを通じて、他教科の先生にはこういう広い目でものが見えるんだ、という発見がありました。教科でも教え方でも人間性でも、自分の持っていないものに出合える、あるいは学び合いができるというのは教師にとっても喜びですね」  (文 小西慶太)

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