保護者、教師、生徒の意識のズレを調査 |
今年四月、加納中学校では大規模な調査を実施した。「学校生活等に関する意識調査」と題されたそれは、岐阜県教育委員会実施の同名の調査をモチーフに作成し、教師・生徒・保護者の三者それぞれに対して行った。
結果は校内および地域に公開された。質問項目は三者それぞれに十五項目程度となっている。「学校とはどんなところだと思うか」など県教委と共通する質問が大部分を占めるが、なかには教科などに関して「学力を高めたり、個性を伸ばしたりするのに役立つか」など、学校独自の質問でかなり踏み込んだものもあった。
今春着任したばかりの古澤哲男校長は言う。
「三者の意識にさまざまな違いがあることが浮き彫りになった。とくにショックだったのが『総合的な学習の時間』に関する大きなズレ。個性を伸ばすのに役立っていると答えた教員は72%もいたのに、生徒は三割にも達していない」
そのほかにも今回の調査で浮き彫りになったのが、保護者は学校に生活指導を強く求めているのに対し、生徒は、各教科の学力に関して達成感を求めているということだった。
「基本の教科指導をいかに充実させるかが大切ということです。他の設問に『勉強していて、うれしい、よかった、と感じるときは?』というものがあるのですが、『難しそうな問題が自分で解けたとき』と回答した生徒が72%もいた。これは保護者の50%、教師の64%を上回る」(図1)
古澤校長は続ける。「ですから教科指導の充実で個性を伸ばせ、と先生方に言っているのです」
生徒を教科の学習に集中させ、もっと高い達成感を得てもらう。それにより、自宅での予習や復習など学習意欲がわき、時間管理の重要性に気づくので生活指導にもなる。登校意欲も同様に高まり、トータルで生活態度の向上につながるという。
教科指導の徹底で、生活規範も含めた学校の機能を正しく発揮できるのだと古澤校長は強調する。 |
▲図1 「学校生活等に関する意識調査」(2003年4月実施)の結果から
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教科指導を柱にした目標づくり |
加納中でこうした大規模な意識調査を行ったのには理由がある。
以前、学校が荒れていた時期があったという。授業時間内の嬌声、備品の損壊、喫煙などの非行行為。消火器の中身が教室にまかれたことまであった。
「今でも学級が荒れる根は残っている。だから今回の調査を企画したということもある」(古澤校長)
まず現状を正確に把握し、関係者でその情報を共有するとともに、地域にも公開する。透明性を確保しつつ学校の目標をつくり、一人ひとりの教師の活動に生かしていく。
「今回の結果には光明がある。教科の達成感があれば生徒は変われる。学校もずっとよくなる」
学校は教科を教えるところという原点から遠ざかっていたのが悪循環の原因だったのではないかと古澤校長は分析し、教科指導に重点を置いたいくつかの目標を立てた。
一つ目は、全教科で基礎・基本を確実に定着させるため、単元指導計画に、その単元で核となる基礎・基本の内容を意識的に位置づけること。
「基礎・基本というと、とかく知識注入の授業に陥りがちです。もちろんときには訓練的要素の強い授業も必要ですが、そればかりだと、生徒が授業から離れていってしまいます。知識・理解に偏らず、教科の本質を貫いたものにする必要があります」(古澤校長)
二つ目は、生徒一人ひとりの実態を把握し、個に応じた指導を充実させること。各単元の導入時点で、単元を理解するためのレディネスをどの程度もっているか調査する。その結果に基づいて指導計画を立てていく。
三つ目は、数学・英語での少人数指導や課題別学習などを工夫すること。とくに課題別学習には力を入れている。
生徒の評価はどのように行われているのだろうか。加納中では『学習の足あと』という個別評価表を運用している(表1・2)。もう二十年来活用しており、当初は単純にカルテと呼んでいたもの。学年別、教科別に、観点別の評価項目を十二項目設けている。これを各生徒ごとに評価規準に基づいて集計し、学年末評定をつける。先生は、各単元ごとに生徒に身につけさせる基礎・基本を吟味したうえでこの評価表を作り、指導と評価が一体となるよう工夫している。 |
▲表1 成績表になる「学習の足あと」
カルテでは、各単元別の評価規準に基づき、ア~シの12項目に整理し、3段階で評価する。単位時間での評価項目は、1つないし2つにしぼることと、授業とペーパーテストの割合を教科で統一しておき、カルテのどの評価項目で扱うかを明確にしておくことがポイント。学期末には項目ごとの平均値を集計し、4観点に重みづけ(英語科の場合、意欲・関心=20、表現力=30、理解力=30、知識・理解=20)をかけたうえで、5段階の評定を行う
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▲表2 教員が管理する観点別個人データ
カルテの評価項目は、ア~エ=関心・意欲、オ~キ=表現力、ク~ケ=理解力、コ~シ=知識・理解を表す(英語科の例)
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徹底的な情報公開で信頼を得る |
「なぜそうした評価をつけたか」を保護者にも客観的に説明することは不可欠だ。
現場での生徒とのふれあいを大切にしながらも、保護者に説明責任を果たすためには、数値で証明できるデータが必要なのだという。
二〇〇二年度から公立の小・中学校で絶対評価が導入された。これに関する保護者の反応はどうなのだろうか?
「教科指導の成果はデータで保護者に説明できる。ただし高校入試に関して、とくに私立高校は公立中学校の絶対評価に不安を感じているし、保護者もそのことを知っている」(古澤校長)
そのため、進学先となる高校との連絡を密にし、中学校での評価の実情を把握してもらう努力をしているのだという。
「教科指導の徹底には、先生方のやる気を引き出す工夫も必要。OBや近隣校にも声をかけ、人材を共有する取り組みを始めています」
名づけて「あこがれ講師派遣事業」。命名は古澤校長自身だ。
教師からの「この先生の指導を参考にしたい、あの人ならどう指導するかを教えてもらいたい」という声を聞き、いわば校長外交でその先生を招聘するというもの。これは学校が地域に密着し、歴史を重ねているところから生まれた発想だ。
こうした校長の考え方やアンケートを通した学校の実態、絶対評価の規準などは、すべて保護者に公開していく。それにより保護者や地域との一体感が強化され、結果として子どもの学力向上につながっていくのだという。
「学校とは教科を学ぶところ」その当たり前の原点に立ち戻り、その使命をしっかりと果たしていくために、古澤校長をはじめ、教師陣の奮闘は続いている。 |