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情報公開と学力向上で地域の期待に応える

東京都品川区立 八潮南中学校
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情報公開と学力向上で信頼回復を図る
 「地域の子どもは地域の学校に行くのが最も自然で幸せなこと」と言う大瀧吉夫校長が、昨年四月に赴任して、まず取り組んだのは学校の情報公開である。
 昨年度、新入生が激減した背景には複合的な要因があるのだが、「学校が荒れている」と地域で言われたことが大きかった。昨春卒業した学年に目立つ生徒が多かったのは事実だ。しかし在校生のなかで心配な生徒はごく少数で、校長自身が接してみたところ、きちんと指導すれば理解する力を持った子どもたちだった。にもかかわらず、地域では卒業生よりも問題のある生徒が多いように噂されていた。隠すから憶測される。この状態をなくすには、生徒たちの学習活動と教師の指導の様子を知ってもらうことがいちばんだと考えた。
 もう一つの取り組みは生徒の学力を向上させることである。以前は学力が高い学校と評判だったため、地域住民の間にはかつての誇りを取り戻してほしいという願いが強い。高校進学の際に成果ははっきりと出る。「子どもに学力をつけるのは学校の責任です」と大瀧校長は言い切る。
ほぼ毎週、授業を地域に公開
 同校では昨年度、ほとんど毎週のように公開授業を開催した。できる限り多くの人に来てもらうため、通知の内容も具体的に授業内容を知らせるなど工夫した。
 案内書は区の地域センターにも置いて、地域の人たちの参加を呼びかけた。その結果、ときにはある学年の保護者全員が訪れたり、小学生の保護者が参加することもあった。真剣に授業を受ける子どもたちの姿と噂話のギャップに驚き、「見ると聞くとは大違い」と感想を漏らした保護者もいた。
 今年の五月末には、隣接する八潮南小学校との合同運動会を初めて実施した。児童・生徒の交流が進むことはもちろんだが、保護者も教師も、運営のために接する機会が増えたことの意味は大きい。
▲公開授業のお知らせ。興味を持ってもらえるよう、授業内容も具体的に示した

習熟度別学習と「かもめ塾」
 もともと、学級の規模は小さかった同校だが、昨年度からはさらに少人数の学級編成をした。一年生は十九人、二年生は五人、三年生は二十七人ずつの各学年二学級にした。学力向上をめざして個々の生徒への指導を充実させるためだ。単学級では子どもに人間関係を築く力がつきにくいと心配する保護者の不安も解消された。
 併せて、習熟度別授業にも取り組んでいる。主要五教科では、基礎クラスと応用クラスに分けた習熟度別授業を行っている。それぞれの学力に合わせて、一、二年生は二クラスに、三年生は四クラス(基礎クラス2・応用クラス2)に分かれる。基礎と応用どちらのクラスを選ぶかは生徒の希望で決まるが、教科ごとに事前に演習問題を解き、どの程度の正解率ならどちらのクラスを選んだほうがいいか、教師が目安を示してアドバイスしている。
 二年生の数学の基礎クラスを見学すると、五人の生徒が連立方程式に取り組んでいた。教材は数学担当の教務主任・栗田賢先生の手作りプリント。具体的な例が示されていてわかりやすい。目が行き届く人数なので、練習問題で戸惑っている生徒がいればすぐに先生が手助けできる。応用クラスでは、教科書とノートで授業を進め、たくさんの練習問題にチャレンジしたりするそうだ。また、生徒は単元が変わるごとに違うクラスを選択することができる。例えば、同じ数学でも、苦手な分野では基礎クラスに、得意な分野のときは応用クラスに行くことができる。二つのクラスで進度を合わせておかなければならないなど教師には苦労があるが、生徒には好評な仕組みだ。
 また、昨年の夏休みから、「かもめ塾」と名づけた補習も始まった。七月末と八月末の各五日、計十日間実施。希望制だったが、一、二年生はほぼ百パーセント、三年生も五割以上が出席し、保護者にも好評だったという。教科は五教科に体育を加えた六教科。一、二年生は復習を中心に、三年生は受験も意識しつつ、少人数による一人ひとりに応じた指導を全教員で行った。コマ数(ボリューム)を今夏はさらに増やし、小学校高学年から中学校の学習内容を十のステップに分けて、それぞれのステップに対応したプリントを作る。学年にこだわらずプリントに取り組み、これまでの学習でわからなかったところを克服できるよう指導する。
▲2年生数学・基礎クラスの授業。主として手作りプリントが使われる。生徒数が5人なので先生はきめこまかに対応できる

新一年生による授業評価は高スコア
 大瀧校長は、改革を実施するには何よりも教師の姿勢が大切だと言う。
「教師の目標が低いと、現状を変えていくことはできません。教師の一生懸命な姿勢は、子どもに伝わります」(大瀧校長)
 校長ひとりが頑張っても、現場の先生方が動いてくれないと学校は変わらない。大瀧校長は、学校経営の方針や、校務運営上の留意点などを具体的なことばで文章にして配布している。
「小規模校だと、管理職への報告・連絡や会議の運営などがいい加減になりがちです。小規模校だからこそ、そうした業務もていねいにしっかりと取り組む必要があるのです」(大瀧校長)
 先生方のモチベーションも上がっていると大瀧校長は顔をほころばす。
 昨年、校長の発案で、一年生に各先生の授業について評価してもらう十一項目のアンケートを行った。戸惑いを隠せない先生方もいたが、結果は予想以上に先生への評価が高かったことで自信を持った。生徒の気持ちは表面的に見るだけではわからない。アンケートで子どもの内面を知ることができ、その後の授業にも熱が入る結果になった。
「地元の子どもが楽しく通える学校をつくりたい。まだ二年目。本当に改革するには六年は必要です。これからですよ」(大瀧校長)
 
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