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わくわく授業のアイデア

玉置 崇先生
愛知県小牧市立 小牧中学校
玉置 崇先生(数学担当)
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わくわく授業のアイデア
このコーナーでは、生徒の意欲を高めるために先生方が授業のなかで工夫しているちょっとしたコツを紹介します。
●学習意欲を高める数学の授業のコツ
数学は最も論理的で系統立った学問だ。たし算の次に学ぶのはひき算、比例の次には反比例という順序は思考の順序であり、必然的な順序。その順序を追って、考えていくのが数学のおもしろさだ。だが、公式や定理を暗記し機械的に当てはめていく授業では、生徒に数学の魅力は伝わりにくい。生徒自身に思考の順序を発見させ、理解させることで、数学のおもしろさを伝えている玉置先生の授業法を紹介する。
コツ1 導入のとき、生徒に教科書を開かせない
 「教科書の行間を埋めるということが、ぼくの授業法の主眼なんです」
 教科書には、生徒に理解させるべき要点がまとまっているが、そこに至る思考の過程は書かれていない。生徒にプロセスを体験させ、発見させるのが玉置流。
 例えば、1年生の数学。「2つの点を通る直線は1本しか存在しない」ことを学ぶ場合、教科書を開かせ、載っている図を見せれば、あっという間に説明は終わる。だが、最初に教科書は開かせない。まず、ノートに1つの点を描かせる。「その点を通る線を描いてみよう」と言うと、生徒は何本もの線を描く。「どんな線を描いた?」ときくと「直線」「曲線」という返事。「直線と曲線だけ?」「そう、直線と曲線だけ」。線は直線と曲線の2種類だと理解する。「直線はどれだけ描ける?」「無数」。「曲線はどうだ?」「直線と同じで無数」。こうして、生徒は自分の力で「一つの点を通る線は無数にあること」を知ることができる。
 次に、「今度は先生は何をさせると思う?」と問いかける。一方的に先生が指示することはない。何人かの生徒が答えるうちに「点を2つにする」という声が出る。そこで、2つの点を通る線を描いてもらう。曲線は何本でも描けるが、直線は1本しか描けないことがわかる。
 ここで初めて教科書を開かせる。そこには、生徒が自ら考え発見したことが書かれている。
「教科書の内容から離れたことをしているわけではないし、特別なネタを使うわけでもありません。ささやかなことですが、教科書を開いて説明するよりも、生徒は深く理解できる。基礎を深く理解していれば、応用ができるようになります」
▲テストにも、答えだけを書かせるのではなく「なぜそうなるのかを説明しなさい」、「考え方がわかるように書きなさい」といった問題が目立つ。採点には手間がかかるが、答えに至るプロセスを大切にする姿勢を貫いている
コツ2 作業のなかでの生徒のつぶやきを聞き逃さず、生徒の言葉で授業をつないでいく
 生徒の言葉をもとに授業を進めるつもりでも、難しい課題に取り組むときなど、生徒の発言がなかなか出てこないことがある。そんなときは、生徒に簡単な作業をさせる。だれでもできる作業であることが大切。
「2÷0=0。正しいと思う人は○、間違っていると思う人は×をノートに書きなさい」
 2÷0の答えはわからなくても、○か×なら書ける。ノートを見て回りながら「おお、きみは○か」「うん、×だと思うんだな」と声をかける。評価はしない。どの生徒がどう答えているかを頭に入れておいて、意図的に指名する。「なぜ○だと思った?」「なぜ×だと思った?」
 生徒が「なんとなく」「わからない」と答えても、言葉を否定しない。「じゃあ、考えて思いついたら答えてくれ」「またチャンスがきたときは頼むぞ」などと、焦らず小刻みな作業を続ける。
「じゃあ、10÷5=2、正しいと思う人は○、間違っていると思う人は×を書いて」ほとんどの生徒が○をつける。「どうしたら正しいと確かめられる?」「2に5をかけると10になる」
 ここで、0で割る問題にも当てはめて考えさせようと、「解の2に除数の5をかけてみると確かめられるんだな」などと言い換えてはいけない。生徒の言ったことをしっかり聞き、教師はそのまま反復する。「2に5をかけると10になる」発言を繰り返すことによって、生徒の発言に価値が与えられ、次の発言につながる。
 反復された言葉を聞いて、何かに気がつく生徒もいる。思いついた表情を見逃さず、「今、にこっとしたね? 何か思いついたら言ってみてくれ」と指名する。
「2÷0=0、0×0=2にはならない」「どんな数にも0をかけたら0になってしまう」「最初の問題に答えはあるの?」「0で割ることなんてできるの?」
 小刻みな作業の繰り返しのなかで、生徒は答えや疑問を口にし、解決策を見いだしていく。
「生徒は三十数人います。教師の側に引き出してやろうという思いさえあれば、何かしらの言葉が出てきます。1人で完璧な答えが出せなくても、何人かの言葉をつないでやればいいんです」
コツ3 教室で起こったことのすべてを黒板に書く。ノートは漫然ととらせない
 生徒の発言をそのままにせず、できるだけ黒板に書く。発言の内容が間違っていても書く。書くことは、発言した生徒への称賛になり、次の発言を生む。さらに、書き残しておけば、課題を解決したとき、黒板の上には生徒たちが何を考え、試行錯誤し、答えにたどりついたかのプロセスが残る。この授業で何を学習したかがはっきりとわかる黒板にすることが理想だ。
 授業内容がわかる黒板ができあがったら、生徒にノートをとらせる。教師が板書するのを追いかけるように、ノートをとらせない。ただ書き写しているだけでは頭が働かないし、教師や他の生徒の発言を聞くこともできなくなってしまう。まずは課題を解決することに集中させ、理解したことをノートに書かせる。
 さらに、定理や公式など、とくに重要なポイントは暗記してからノートに書くように指導する。生徒は黒板をじっと見て公式を覚え、頭を上げずに一気にノートに書き取る。なんとか思い出そうと四苦八苦している生徒には、「一度だけ頭を上げてもいいぞ」と助け舟を出してやる。一度に書き取れずに頭を上げる生徒が多いようなら、もう一度内容を説明する必要がある証拠。生徒の到達度を測る目安にもなる。
 
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