特集 「考える力」を引き出す授業―理数教科からのアプローチ―

神谷和宏

▲刈谷市立刈谷南中学校教諭

神谷和宏

Kamiya Kazuhiro

教職歴22年。現在2学年主任。個に応じた指導のあり方を研究し、体験的な活動を取り入れた授業は、見る人を感動させる。第35回読売教育賞受賞。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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私の実践<数学>
神谷和宏先生
愛知県◎刈谷市立刈谷南中学校

見通しを持たせる授業で「直観力」を育てる

数学に体験的な要素を織り交ぜるのが、神谷和宏先生の授業の特徴だ。さらに、生徒の意見を引き出すさまざまな仕掛けをプラスし、どの教科にも必要な「直観力」を育て上げていく。その実践内容を追った。

生徒の“つぶやき”を学級全体の意見に増幅させる

 神谷和宏先生の数学の授業では、単元の冒頭に、しばしば体験的要素を取り入れる。例えば、2年生の単元「一次関数」の冒頭では、「さおばかり」による実験を行う。
 授業の冒頭、先生は皿の上に乾電池を乗せ、さおを水平にするためには、乾電池と同じ重さの分銅をどの位置にぶらさげたらよいか問いかけ(写真1)、それぞれの意見をワークシートに記入させる。大半の生徒は、写真2のように、支点から乾電池までの距離と左右対称になる位置か、それに近い位置に分銅を取りつければよいと答える。神谷先生は、その理由をワークシートに書くように指示し、生徒たちの机を回って、解答をチェックする。ここで神谷先生が取り入れているのが「○つけ法」だ()。

(注)○つけ法:生徒が個別学習に取り組んでいる間に、全員の机を回って赤ペンで○をつけていく机間指導。子どもの思考の表れをその場で評価し、個に応じた声かけをすることで、子どもの自力解決を助ける。子ども全員の考えを把握できることから、その後の授業の方向性を決める手段としても有効

 「一人ひとりの解答を見て、『面白い理由だ』『どうして、そうなるのかな』などと声をかけ、生徒の考えを引き出していきます。また、練習問題などに取り組む時間であれば、正答には○をつけ、考えあぐねている生徒には『途中までは合っているよ』『こう考えたらどうかな』などと、自分で考えるためのヒントを与えていきます」
 この方法は、生徒がどれだけ理解しているか、教え方は適切だったかなどを確認するうえで役に立つという。
 生徒たちが一通り考えを巡らせた頃合いを見計らい、先生は一人の生徒の意見を取り上げ、「□□さんは、分銅の位置は支点から乾電池までの距離と『同じ距離』にしなくてはならない、というところに目をつけたよ。みんなはどうだろう」と、クラス全体に問いかける。ある生徒が「そのほうがバランスがよさそう」とつぶやくと、先生は、「バランスという考えは大切だね」と、その意見も議題に上げる。
 さらに「△△さんは、どう考えた?」「☆☆さんの考えに対してはどう思う?」などと、生徒の断片的な意見をクラス全体の意見として取り上げることで、あたかも生徒たち自身で議論をしているかのような雰囲気をつくり上げていく。その際、神谷先生が重視するのが、答えの正誤を問わず、どんな意見も「受け入れる」ことだ。
 「生徒の意見を認め、それを大げさに発表することで、生徒は自分で考え、自分で発表したような気分になります。それまでは無意識のつぶやきに過ぎなかった考えが、明確な意見として顕在化されます」
 意見が出揃った段階で、いよいよ実験の開始だ。まず、大半の生徒が出した答え通り、乾電池と左右対称に分銅を取りつけると、じつは写真3のようになる。つまり、水平にはならないわけだ。生徒たちから驚きの声が上がる。予想通りにならなかった理由を考えさせると、「さおの重さがあるから」などと意見が挙がってくる。それらを先ほどと同じ方法で話し合いの俎上にのせ、生徒たちの考えを促す。結論として、はかりが水平になるのは写真4の位置だ。驚きの目で見つめる生徒たちに対し、さらに「では、乾電池を二つにしたら? 三つ、四つにしたら?」と問いかけていく。

写真1
写真1 さおを水平にするためには、分銅をどの位置にぶら下げればよいか、生徒の意見を募る
写真2
写真2 生徒の予想は…
大半の生徒は、支点から乾電池までの距離と同じか、それに近い位置で写真のように釣り合うと予想する


写真3
写真3 実際に確かめると…
実際に実験で確かめると、水平にはならない。予想が外れた生徒は驚きの声を上げ、その理由を考える


写真
写真4 実際に水平になるのは…
さおが水平になるのはこの位置であり、ここから乾電池の数や分銅の位置を変化させ、数値化していく
 その後、授業では、乾電池の数によって変化する分銅の位置を数値化し、図1にあるような表やグラフを作る作業に入る。やがて、生徒たちは、そのグラフが一次関数のグラフであることを理解する。
図1 板書計画
図1
生徒たちの目の前で繰り広げられた実験を、数学的な知識として定着させるため、授業の最後に板書のポイントを少しずつを消しながら生徒に確認していく

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