教える現場 育てる言葉

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 2/4 前ページ 次ページ

同じグラウンドに立つ上で不可欠な「共通感覚」

 高野さんは子どものころから駆けっこには自信があった。中学時代は陸上部に所属。本格的に400メートルを始めたのは高校に入ってからだ。最初は1600メートルリレー(4×400メートル)の選手で、以来およそ30年間、理想の走りを追究してきた。この経験から、個人競技であるスプリント競技において高野さんが大事にするのは、同じグラウンドに立つ者としての「共通感覚」である。
 「50人の短距離チームは、競技会に出場する選手だけで動いているのではない。大会で勝つという目標があって、その目標の下にコーチをはじめ、控えの選手やマネージャーなど全員が役割を担って参加している。代表選手は、そういう共同作業の延長にいるわけです。この共通感覚がないと強くなりません」  もちろん選手には記録という目標がある。だが、記録もチーム内に「共通感覚」がないと伸ばすのは難しい。個々の選手に合わせて技術的な指導はするが、モチベーションは1人で維持できないし、指導者をはじめ仲間とのコミュニケーションが大事になる。記録を目指して走るのは本人でも、それは共同作業の上に成り立っているのである。
 「勝とうが負けようが自分の世界だから関係ないというのは、まだ本人がレジャーやレクリエーションの段階にとどまっているということです」と高野さんは続ける。仲間との「共通感覚」があると自分自身の目的意識が研ぎ澄まされ、頑張りが利き、記録を狙う気持ちをより強く保てるようになるのだ。
 高校時代に記録を持っていても、大学で伸びない選手がいる。自分のやり方を変えないためである。高野さんは「自分が伸びてきた過程を大事にする気持ちは分かる」としつつも、「過去の経験は土台です。しかし、それに縛られると新たな一歩を踏み出せない」と話す。周囲との間に壁ができて、互いに「共通感覚」が持てないからだ。
 高野さんが常々モットーとして掲げている言葉に「ポジティブ・ノンレジスタンス」がある。「肯定的無抵抗」という意味だ。高野さんは高校、大学を通して、コーチの指導には全面的に従ってきたという。コーチが要求することを100%消化して、それを自分の走りで具体的な形にしてさらに高いレベルで示すように努力してきた。そうやってコーチと自分の間に「共通感覚」を築いてきたのだ。
写真

   PAGE 2/4 前ページ 次ページ