記念特集 中学校教育のこれまでとこれから
西村誠博

にしむら・よしひろ 教職歴11年。国語科担当。生徒指導主事。岡山市立福浜中学校を経て、2002年度から同校。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【私の指導エピソード】挑んだ!越えた!あの瞬間

独りよがりの「サービス」に酔っていた
新任時代からの脱却

岡山県岡山市立岡輝(こうき)中学校教諭

西村誠博

「教師はサービス業」と思い込む

 10年前、まだ駆け出しの教師だったころ、私は「教師はサービス業である」と思って、指導に当たっていました。
 その徹底ぶりは、今考えるとあきれるほどです。教師に休みなんてない、どのような無茶な要求でもきちんと応えるのがよい教師――。そう思って、自分の携帯電話の番号を公開し、生徒や保護者からひっきりなしにかかってくる相談の電話に必死で対応していました。着信音が鳴れば、夜中の2時でも3時でも電話に出て、ときには自ら出向いて、直接話を聞く。酔っ払った保護者を前にかみ合わない会話を朝まで続け、日の出と共に床に就いたこともありました。
 「新米」教師ということで、保護者に軽く見られていた面もあったのでしょう。私自身、保護者に悪く思われたくないという気持ちがあったのかもしれません。
 転機が訪れたのは教職に就いて8年目、現任の岡輝(こうき)中学校に赴任して3年ほど経ったころです。きっかけは、ある生徒との再会でした。ある日、前任校で担任をしていた生徒と町でばったり会いました。その生徒はもう高校を卒業しているはずだと思いながら声をかけようとした瞬間、その生徒はぱっと目をそらし、私の目の前から足早に遠ざかっていってしまったのです。
 私は、何とも言いようのない寂しさに包まれました。何も「3年間お世話になりました」と、生徒にお礼を言ってほしかったわけではありません。「教師はサービス業」と言って、人一倍、生徒・保護者に尽くしたつもりでいながら、私の思いは彼らには届いていなかった――。いかに私のしていた「サービス」が、生徒のことを考えていない、独りよがりのものだったのかを思い知らされたのです。
 同時に、その生徒が今、人に誇れるだけの生活を送っていないのではないか、という思いもよぎりました。もし今の自分に自信があるのなら、「就職決まったよ」「結婚したよ」などと近況を伝えたくなるはずです。生徒が胸を張って歩けるような人生を送るきっかけをつくるのが、我々教師の仕事ではないのか。私は担任として進路指導をしながら、そのことを全く意識していなかったことに気づいたのです。
 それからは、生徒や保護者の要求や苦情に、単に対症療法的に応じるのではなく、常に先を見て、その生徒の将来を考えながら行動するようになりました。独りよがりの「サービス」としてではなく、私自身がどのように生徒を育てていきたいのか、「信念」を持って教育にあたることが大切だと意識するようになったのです。


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