10代のための学び考
外村 彰

外村 彰

とのむら・あきら
1942年兵庫県生まれ。東京大理学部物理学科卒業。工学博士、理学博士。(株)日立製作所中央研究所入社以来、電子線装置の開発、応用研究に従事。現在は、(株)日立製作所フェロー(特別研究員)であり、理化学研究所、沖縄科学技術研究基盤整備機構で活躍。日本学士員会員。82年仁科記念賞、02年文化功労者顕彰ほか受賞多数。主な著書に『量子力学を見る』、『量子力学への招待』(いずれも岩波書店)などがある。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 1/3 次ページ

10代のための「学び」考

外村 彰

(株)日立製作所フェロー 日本学士院会員
壁に突き当たったときの
“原因探し”や“謎解き”が研究の醍醐味

 DNAや原子はもちろんのこと、0.5オングストローム(1億分の5㎜)というミクロの世界の観察を可能にし、だれも見たことのない高温超伝導体中の磁束量子の観測を実現させた「1MVホログラフィー電子顕微鏡」。この世界最高の性能を誇る電子顕微鏡の開発に成功し、物理学の常識を塗り替える数々の業績を残してきた外村彰氏。その原点は幼少期に抱いた好奇心にあったという。

「電子の波を見たい」と物理の道へ

 思い起こせば、小学校のころから自然現象を見ることが大好きでした。自然の面白さを教えてくれたのは担任の先生です。先生に連れられ自然観察に出かけ、昆虫に近付いてそれらが動く様子を観察したり、川の流れを眺めたりしたことを覚えています。外で遊ぶことが好きでしたが、体が弱かった私は家で寝ていることもよくありました。そんなときでも天井の美しい木目を眺めたり、雨の日は庭の水と雨粒がそこにつくる波紋を見たりしては、奇麗だなと思っていました。
 中・高校時代になると、数学や物理のように答えのはっきり出る教科が好きになっていきました。物理では、太陽や月がどんな動き方をしているのか、飛行機から飛び降りたらどんな速さで落ちていくのかといったことが、たった一つの法則で計算によって正確に予測できます。私は、それがとても面白かったのです。中でも大学3年生のときに習った量子力学にとても魅力を感じました。電子は粒子だと思っていたのですが、授業で「電子は波だ」と教えてもらい、「本当に電子が波ならば、その形をこの目で見たい」と考えるようになりました。少年のときに見た水溜まりの波紋のような美しさがあるのではないかと思ったのです。


   PAGE 1/3 次ページ