ベネッセ教育総合研究所 ベネッセコーポレーション
目標・指導・評価の観点を踏まえた学校づくりをどう進めるか
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先進事例の紹介(2)……評価規準をスリム化した静岡県
村松先生 静岡県の場合も、基本的な流れ・推移は陣川先生が実際に取り組まれた福岡市とだいたい同じです。
村松先生 まず、2001(平成13)年度ですが、校長会が中心となり-実は県のセンターが中心となってたんですが-県内220人の先生方が集まり、評価規準の作成を行いました。そのなかには、指導主事22人、うち県の指導主事が11人入っています。それから校長会から22人出てきておられます。伊豆の先端から浜松の一番西の指導主事までが来られました。ということで、220人の先生方を3回に分けてけて集めて作成しました。
 ものすごく活発な話し合いをしていただきました。全部で11分科会があり、私もその分科会を全部回りましたが、体重が3kgも減りました。ダイエットをされる方は試してみるといいかもしれません。
 それで、とにかく仕上げてしまったんですが、その仕上げたものが、実は詳しいんです。これは理科のページなんですが(資料・静岡(1)参照)、2枚目の「動物の生活と種類」を見てください。学習内容としては比較的、大変よくまとまっていると思います。
資料・静岡(1)
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資料・静岡(1)
中学校・理科
平成13年度の静岡の評価規準表
 評価の観点は関心・意欲・態度・科学的思考の4つです。それをもとにして、24時間分をこれだけに一応集約しました。そのなかで大事にしたのは、ポイントとなる項目というか、「目標の構造が見えてくる」ようにしたことです。
 実は、いま、教員にいちばん必要なことは、目標の構造が見えるということです。それが見えることで、初めて評価につながっていくのではないかなと思うんです。
 それからもう1つですが、その次の資料を見ていただけると、次の資料、A、B、Cと書いてあります(資料・静岡(2)参照)。これは、単元のまとまりのなかで子どもを見ていこうとするものです。最終的に10時間~15時間でひとまとまりです。これは、「1時間の授業のなかではAでもBでもCでもいい」「授業の中で子どもは失敗していいよ」という考え方なんです。だから、「最終的にこんな力がつけばいいよ」と考える。
資料・静岡(2)
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資料・静岡(2)
中学校・理科
平成13年度の静岡の評価規準表
 それともう1点です。「総括化システム例」というのがあるんですが、ご存じですか? どこの学校でも、「観点別に絶対評価をするとして、どうやって通知表につければいいんだ?」という話が出るんです。実は静岡県では、「総括化システム例」を出していて、すべての学校がどれか1つの例を使って、通知表をつけているんです。そして、先生方が、日夜、どうやって4にする、どうやって5にするという話をしているです。しかし、成績をどうつけたかではなくて、どう子どもを評価したかが大切です。
 中学校の先生は、「評価」と「評定」の区別がつかないんです。評価の話をしますと、「どうやって通信表つけるの?」という話に陥る。さっき、陣川先生から、評価についてわかってもらえるまで時間がかかったというようなお話がありましたが、中学校の先生方は評価そのものではなくて、通信表をどうつけるかという頭になっているのです。
 今年、評価システムを一応出しました。実際には、この評価規準をもとに、ほとんどの学校が独自に評価規準づくりを行いました。いろんな先生方からアンケートをいただきましたが、「授業研究に役に立った」という声がありました。
 この規準は、体系的につかむことをねらっていません。体系的につかむことは必要ですが、日ごろの指導で、先生方が意識できる範囲を主眼において、より実践的なものを評価規準として残そうと心がけました。
 アンケートでは「目標が明確化されたり子どもをより見るようになった」という先生方の声があったんですが、とにかく、もう少し肩の力を抜いて指導をしていこう、それからもっと本当の子どもの姿を見つめていこうというのが、実はねらいなんです。
 そういうなかで、次のページを見ていただくとわかるように、授業の24時間分をこれだけに絞りました(資料・静岡(3)参照)。
資料・静岡(3)
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資料・静岡(3)
中学校・理科
平成14年度の静岡の評価規準表
 古川先生はこれ見て「寂しすぎるなあ」「校長としてはこれじゃあ困るんじゃないか」とおっしゃる。確かに、これを指導内容としてとらえると、ちょっとまずいんです。現場の先生方に言ったのは、「これだけ指導すればいいという誤解は絶対しないでください」ということ。「24時間の中で子どもを見るとき意識してくれればいい」ということです。
 それから、「B評価の基準とA評価の要素」と書いたこの表ですが、この詳しい表をやめました。先生方はなかなか読めませんので、こうしました。つまりAの子とBの子がいるときは基本的にBの子を中心にして見るというもの。絶対評価の基本はABCを割り振ることではありません。目標に、ねらいに到達したかどうか、つまり最初はBかCです。そのときAは、Bのより能力が高い子として「吹き出し」をつけて明確にしました。Cについては、「補充指導例」を書いてあります。
 実践に役立つものをということで考えています。
 とくに関心・意欲・態度は、「そんな内容は絶対ダメ」というものを1年半くらいかけて出しました。それは何かというと、教科書会社の規準ではよくあるんですが、「動物が生きてくるためにどんな特徴を備えているか調べようとしている」「○○を、内容を、調べようとしている」というものを導入段階の関心・意欲・態度に書いてあります。それではどうしてダメなのかというと、授業で、「動物の特徴を調べましょう」と調べさせますが、もし調べない子がいたとしたら、それは教師の責任なのです。それなのに、それを評価規準にするのはおかしいのです。私たちは目標分析をするとき、関心・意欲・態度の中身を、何によって興味が出てくるのかで「セル」に必ず書き込んでいく。「観察をするから興味が出る」というステップがあるとか。一つひとつマスのにそういう中身・思いが入っているものを実際につくっていこうということです。
 目標分析をできないと、実際には難しいとは思っているんですけれども、こういうスリム化をしたかたちの評価規準を先生方がどう使われるかが気になりますが、頑張っていただきたいなあと思っているんです。
 私は去年まで静岡県の総合教育センターにいまして、今年、現場に入りました。先ほど陣川先生が授業中に生徒の1/3が廊下に出て行てしまうということをおっしゃっていましたが、うちの学校も最初はそうだったんですよ。だけど4月、5月で、教室に子どもが全部入るようになりました。しかし、まだ、この評価規準の「ひ」の字の段階までいかないんですよ。だけど、先生方は期末テストが終わった段階で成績をつけているんです。表計算ソフトを使い、この評価規準を参考にしながらつけています。今後は、指導資料として実際に使ってくれるといいなと思っています。
 これからの課題は、「授業に生きる評価規準」を考えていくこと。つまり、評価規準がある利点は何かということです。そういうものが見えてこないと、評価規準そのものも消えていってしまうんじゃないか。そういう心配をしています。
 
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