★SI構築の今までとこれから★
課題解決力を有し、
社会の変化に対応できる人材育成へ
ベネッセ文教総研所長●高田正規
学校選択の弾力化
行政改革委員会・規制緩和小委員会が「弾力化」の方向を打ち出したのは、'96年12月だった。「弾力化」とは、保護者や生徒の側が学校選択の幅を持つことである。だが、学校が皆同じであれば、選択の意義は存在しない。そこで、弾力化を現実化するため、都道府県教育委員会主導の下、高校の特色づくりが推進されることになった。
当初、現場の反応は鈍く、教育委員会が中心となって「特色づくり」のレポートをまとめる程度であった。私が初めてこの種の取り組みに出合ったのは、福岡県での事例である。'97年9月、「学校活性化調査委員会」が発足。中学教師を対象にカリキュラム・進路・生徒指導などの項目について、「どう評価し、どうあって欲しいか」を調査し、高校の課題が整理された。そして'98年度に入ると、当面する問題点とその共有化(教職員間での共通言語化)を図ろうとする動きが高まっていった。
生徒の学習・生活行動や進路志望についての定期的な調査は多くの高校で行っている。個々の教師の「善意と努力」に依存するのではなく、この種のデータから学校課題を整理し、組織として課題解決のために実践活動を推進する高校が増えてきたことは、注目に値する。このような教育活動を、私たちは「SI構築」と呼ぶことにしたい。
SI構築の三つの型
前述の情報交換会では、その「SI構築」を実現する組織の代表例が浮かび上がってきたように思う。
第一に、各主任クラスの教師が中心となり、重要事項を決定していくS型。第二に、管理職の指示を受けた課題検証の場で全教師の共通理解を図り、学校改革へと向かうT型。第三に、自薦他薦でメンバーを募り委員会主導でSI構築を目指すG型。ほかにもSI構築のための組織は存在するが、その中でもこの三つは代表的と言えるだろう。
それぞれに一長一短はある。例えばS型の場合、主任会に出席していない教師の意見をどのように反映させるか。T型の場合、教職員全体からどのように意見を集めるか。G型の場合、委員会以外の教師との意志の疎通をどのように図っていくかなど。これらに対する解決のヒントは、情報交換会の中で提起されていたように思う。S型の場合は、各学年会・校務分掌ごとに意見交換の場を持つ。T型の場合は、グループ分けをして意見の出しやすい場を作る。G型の場合、週に1回会報を出す。他にも解決策は考えられるであろう。重要なのは、教職員間のコミュニケーションを可能とする場づくりだ。
高校教育の存在意義も考慮
高校教育の存在意義も、SI構築の上で忘れてはならないことだろう。それは、社会の変化に主体的に対応できる人材を育てることだ。そのためには、(1)思考力や表現力育成のための基本的(教科)学力、(2)社会のルールとその存在意義を考えることができる基礎学力、(3)将来の職業選択に備えるための「自我の確立」の三つが基本要件となる。加えて、地域社会から個々の高校に寄せられる役割・期待も考慮して、人材育成の方向性を考えることも必要だ。
むしろ問題は、各校でどんな方法とプログラムで「人材」を育成するのかということである。これを追求していくと、生徒たちが内包している「自分中心の世界に閉じこもり、他者への想像ができにくい」「努力そのものが大切だという価値観が欠落している」といった解決課題が浮上してくる。
数年前からHR活動を中心に、生徒を少人数のグループに分け、進路学習や体験学習を展開する高校が増え、素晴らしい事例に接するようになった。高校時代は自我に目覚める時期でもある。「自分はどんな存在なのか。どんな存在であろうとしているのか」と問い掛けている生徒に対して、他者に学び他者と共に学ぶ取り組みは、個性や可能性の発見につながり、他者との関係を考えさせることにつながる。つまり、自我の形成を促す仕掛けとなりうる。このような「自分探し」への仕掛けも、取り入れたい活動である。
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