VIEW21 2002.2  英語教育の新機軸

生徒の十年後を見つめる

福本 国際社会で通用する英語コミュニケーション能力を育成し、異文化を理解する素地をつくる必要性は、先生方の間でも広く認識されていると思います。しかし、そうした授業を実践するときに、大学入試の存在が足かせとなるという意見もまだまだあるようですが。
光岡 まず、最近は大学入試もコミュニケーション能力を重視する傾向にありますから、大学入試に対応できる授業は十分に実現可能だと思います。確かに、これまでは訳読中心の勉強法が難関大学への合格を可能にしてきたのは事実です。でもその結果、何年も英語を学習していながら、結局実践で使えないという状況を生み出してしまっている。実際、アジア社会の中でも、日本の占める政治・経済のウェートはどんどん軽くなっています。日本が孤立しつつある背景には、今までの英語教育にも原因があるのではないでしょうか。英語教育は、大学入試だけを念頭に置いたものではないはずです。5年後、10年後に、生徒が社会で求められる力を身に付けさせるのが、英語教育の目的だろうと思います。
川上 私ももはや大学入試は大きなハードルではないと思います。ただ、確かに入試問題の一部には「この問題で生徒のどんな力を試したいのだろう」と思うものがあるのも事実です。大学の先生も高校でどのような授業を行っているのか、知っていただければと思います。そのためには、高校でもどんどん公開授業をするべきです。もっと情報公開をして、大学の先生にも見ていただければいいですね。
光岡 本校では現在、県内の大学との連携を模索しています。生徒に大学の授業を体験させたり、逆に大学生で基礎的な学力が不足している学生がいれば、本校でリメディアル教育を行っていくプランも考えられます。高校と大学の連携が密になり、授業内容などお互いの状況をよく知ることができれば、入試問題が高校の実情と乖離することもなくなるでしょうね。

発言の向こうには人がいる

福本 中学校、高校、大学が足並みを揃えて、今後の英語教育の大きな方向性を検討する時期が来ているのかも知れませんね。英語教育が担うものが大きければ大きいほど、授業で生徒に何を学ばせるかを吟味する必要性が出てくると思いますが、先生方は今後授業でどのようなことを生徒に身に付けさせたいとお考えですか。
川上 英語は、「読む」「書く」「聞く」「話す」のどれを取ってもコミュニケーションとは切り離せない科目です。相手を尊重するという考え方がなければ、コミュニケーションは成立しないことを英語の授業を通して学んでほしいですね。
 私は以前、生徒のカナダでのホームステイに同行したことがありました。お別れパーティーで、一番英語の話せない生徒を受け入れてくれたホストファミリーの方が私のところに来て、「こんなに素晴らしい生徒を預かることができて嬉しかった」と言ってくれたんです。理由を聞いてみると、その生徒はとても礼儀正しく、冷蔵庫を開けるにしても、いちいち許可を取って開けていたらしいんですね。私が「でも、彼は英語がうまく話せなかったはずだ」と言ったら、「そんなことは問題じゃない。大事なのはパーソナリティーなんだ」と言うんです。英語が話せるようになったとしても、相手を尊重する、異なる文化・価値観を持つ人を認めるという心掛けがなければ意味がないことを、異文化理解などの教材を使って教えていきたいですね。
光岡 今の川上先生の意見には、全く同感です。英語を話すことを通じて、自分の発言の向こうには人がいるんだということを、常に意識させるような教育をしていきたいと思います。 "What to communicate" を生徒に獲得させると同時に、そのベースとなるような人間性も育てていきたいですね。
福本 先生方のお話をうかがって、今後の英語教育に求められるものは、ただ単に、社会で通用する英語力を養成するだけではなく、英語をツールとして「何を考え、どう表現し、さらにどのように人と関わっていくか」という、生徒の生き方をも育成することなのだと感じました。本日は、どうもありがとうございました。


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