その他、国際人の養成に必要なことはありますか。
専門性と語学力ですね。欧米の大学ではダブル専攻制度が定着しており、多くの学生が経済と法律、工学と日本語というように二つの専門科目を学びます。経済学者ではなく普通のサラリーマンになるのであれば、経済学は2年で十分。あとの2年は違う学問を専攻する。一つの学問を4年間専攻するより、2年ずつ二つの学問を専攻した方が社会に出たときに役立つ確率が高い。また、この制度は語学力養成によく適応した制度です。選択科目で語学を履修するよりも、工学と日本語というように専攻として語学を学ぶ方が、より密度の高い学習が可能になります。
英語以外の外国語も含めて、語学は国際社会で活躍するための重要なツールです。それにもかかわらず、日本人は英語が弱点ですね。なぜ、日本人は英語ができないのか。それは、日本での英語学習が文法や読み書きから始められるからです。言葉は人間の本能的な能力です。つまり、脳の無意識領域で学ぶものなんですね。耳からインプットして口から出す。これを繰り返すうちに自然に修得していくものです。ところが、日本人は英語を学ぶとき、脳の意識領域で言葉の回線をつくってしまう。そのために、聞くときも話すときも、一度意識領域で日本語から英語、英語から日本語に訳さなければいけない。「文法から始めて、聞く・話すは後でいい」という理屈は間違っています。まずは聞く力を付けることです。高校では、受験対策時には、なかなか聞き取り練習に時間が割けないのが実状でしょうから、なおさら導入期には聞く力を重視してほしいですね。
ディベートと社会活動の勧め
現在の教育制度、特に入試に関しては改革の必要性が声高に叫ばれていますが、現場の教師は現存の教育制度の枠の中で、国際社会で通用する生徒を育成していかなければなりません。現状で高校の先生方が実践できることとして何が考えられるでしょうか。
まず、左利きの文化に慣れる、つまり論理的に議論できる術を学ぶ必要があります。感性的ではなく合理的に物事を議論する能力を高めるには、ディベートが有効でしょう。最近では授業にディベートを取り入れている学校も多いようですが、事前準備はしっかりしているのに、いざディベートとなると自分たちの主張ばかりで議論が噛み合っていない、反論になっていないケースが時折見られます。一方的に自分の意見を述べるだけではなく、相手の話を聞いて反論することが重要です。この反論が国際社会では重視されるのです。
ディベートでは、反論までは身に付けられますが、実際の国際社会では妥協点を見つけていかなければなりません。そのような力を養う方法はあるのでしょうか。
国際社会では宗教や法律、また善悪といった概念に沿って主張が行われ、議論を行い、妥協点を見つけていきます。一方日本では、周りの人々との人間関係やその場の空気で、物事が決められる場合が多いですね。国際社会のルールを身に付けるには、留学によって外国の価値観に触れるのが早道ですが、日本でも高校生のうちからボランティア活動に従事したり、地域のスポーツクラブやボーイスカウトに参加するなど「優秀な大人」と付き合うことで、社会のルールを学ぶことができると思います。学校生活だけに自分を限定してしまうのではなく、世界で起こっている様々な事象に興味を持ち、年齢や国籍、価値観の違ういろいろな人々と話してみる。自己の視野を広げていくことが国際人として重要なことではないでしょうか。
<前ページへ
|