医学部改革事例(2) ~島根医科大~
医師の資質を鍛えると共に地域医療への意識を高める |
島根医科大は、医学科・看護学科の2学科を擁する単科大。04年4月には近隣の島根大との統合を予定している(03年10月設置認可予定)。
ここ数年、同大においても他大学の医学部同様、医学科の改革が着々と進んでいる。同大の改革の中心は、4年次から行われるチュートリアル教育と5年次前期に設けられたOSCE(コラム「共用試験」参照)だ。 |
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チュートリアル教育は東京大同様、テーマごとにディスカッションやグループワークを行い、ポイントごとに指導教員のアドバイスを受ける。OSCEは、模擬患者を相手に問診を行い、検査や治療についての方針を立てる。チュートリアル教育により考える力を養った上で、OSCEでコミュニケーション能力を身に付ける―。段階を追って、医師として不可欠な資質を鍛え上げていくのである。
島根医科大の多田学副学長は、コミュニケーション能力の重要性について、次のように述べる。
「患者から症状についての情報を聞き出し、適切な治療方針を立てるためには、患者との信頼関係が欠かせません。考える力はもちろんのこと、コミュニケーション能力は医師にとって必須のスキルです」
「早期体験実習」もコミュニケーション能力を身に付けるための科目である。入学後3週間目に実施され、地域の特別養護老人ホームや福祉施設に赴き、2日間に渡って介護などのボランティアを体験する。実習後はグループ討議を行い、さらにレポート作成や発表まで行う。
「やはり、学生には体験させることが一番なんです。車椅子を押す、目線を同じ高さに合わせて喋る、といった一つひとつの体験から、信頼関係を醸成する手法を身に付けていくのです」(多田副学長)
同実習の意義はコミュニケーション能力の涵養にとどまらない。地方の医学系単科大の教育・研究は、地域医療との関係が不可分だが、「地域医療への意識を高めるための効果もある」と多田副学長は指摘する。
「本学は、日本でも特に高齢化の進んだ地域にあります。そのため、高齢者の健康をはじめ地域の健康増進の視点は欠かすことができません。地方の医学系単科大として、地域機関との連携の中で教育・研究を行っていくことは、何よりも重要なことです。入学直後は、学生の地域医療に対する意識は決して高いとは言えませんが、地域の人々と接することで、学生は自覚を深めていくのです」(多田副学長)
社会とのかかわりを直に感じながら、医師として必要な力を身に付ける。地方医科大のメリットはこのような点にあるのではないだろうか。 |
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学ぶ力の涵養、コミュニケーション能力の育成、職業に対する自覚――。
医学部改革の現場では、単なる知識を教授するだけでなく、総合的な人材育成をも視野に入れた教育が模索されている。改革の要諦は、(1)コミュニケーション能力の養成を通した人材育成、(2)学びの意欲を早期に喚起していくシステムづくり、であると言える。その根底にあるのは「医師としてふさわしい人材を育成したい」という精神であり、そこに都市部の総合大、地方部の単科大の違いはない。学生には、「なぜ医師になるのか」を絶えず問い続ける姿勢が求められるのである。
ともすれば、医学部の場合、進路選択の場面で職業のイメージや安定性、受験難易度などで安易に選択してしまうような場合も見受けられる。高校段階では、「なぜ医師という職業に就きたいのか」を、これまで以上に真剣に考えることが求められるだろう。 |