北海道旭川東高校
水野 雅文
Mizuno Masafumi
教職歴16年目。同校に赴任して8年目。教務部長。理科(化学・生物)担当。合唱部顧問としても活躍中。
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現状を打開するヒントとノウハウ ナレッジの継承(2)
テーマ
教科への興味を引き出す
「AI(人工知能)が人間の脳を超えることはあるのか」「生物と無生物の違いは何か」――。旭川東高校の水野雅文先生の周りでは、学問の本質に関わるような熱い議論が、日々生徒と交わされている。「教科書を進めるだけで手一杯」と嘆く教師が多い中、生徒を深い教科学習にどのように導いているのか。その秘密はあるプリントに隠されていた!
学問の本質を伝える
「WEEKLY SCIENCE」
学ぶことの楽しさを伝えたい、生徒の知的好奇心を触発し、学問の本質に触れられるような授業をしたい――。授業改善に取り組む教師なら、このような思いを抱くのはごく当然なことと言えるだろう。だが、授業時数の確保が厳しくなる中で、「教科書を進める以上の取り組みは難しい」という声が現課程では次第に強くなりつつある。特に、生徒の興味・関心の喚起に役立つ「教科書以外の話」をする時間が圧迫されている点は、多くの教師にとって悩みの種だ。化学・生物担当の水野雅文先生も、こうしたジレンマと闘っている。
「単に教科書を進めるだけの授業は、生徒はもちろん、教える側の教師にとってもつまらないですよね。教科書を進める時間をきちんと確保しつつ、何とか学問の深みに生徒の目を向けさせるような授業ができないかと考えていたんです」
そこで、4年前から水野先生が同僚と取り組んでいるのが、「WEEKLY SCIENCE」と名付けた教科通信の発行である。「オスとメスはなぜ存在するのか」「人工知能は人間を超えるか」といったテーマの読み物を教師が持ち回りでB4版のプリントにまとめ、ほぼ週刊で発行しているのだ。
「教科書を進めるだけでは分からない自然科学の面白さ・奥深さを伝えることで、生徒の知的好奇心を触発したいと考えました。特に最近は、生物と化学、化学と物理という具合に、科目間を横断するようなトピックも増えていますから、科目横断的なものの見方を重視しています。執筆は担当の先生に一任していますが、70号を超えた現在も、『ネタ切れ』なんて話は全然聞かれません。教師自身も面白いと思っているからこそ、4年間も取り組みが続いているんだと思います」
教科の授業の可能性を一枚のプリントが広げる
生徒の知的好奇心を触発する――。この目的に照らし、「WEEKLY SCIENCE」には、いくつかのこだわりがある。その一つ目は、同じものを全校生徒に配付するということだ。一見、1年生にはハードルが高いようにも思えるが、「1年生向けにあえて易しいものを配ったら、生徒の方から『上級生と同じものを』という要望が多く出たんです」。そのため、今のスタイルに落ち着いたそうだ。
一方、「WEEKLY SCIENCE」を必ず理科の授業で配付することも、こだわりの一つ。教師が専門的な解説を加えられるだけでなく、使い方によっては、授業の導入に絶大な威力を発揮するからだ。
「例えば、教科書で細胞の単元を扱うときに、教科書通りに『これがDNAで~』と教えても、生徒の反応は今一つです。でも、『生物と無生物の違いは何か』を取り上げた『WEEKLY SCIENCE』のバックナンバーを用意して授業の取っ掛かりに使えば、生徒たちのノリは相当違ってきます」
だが、水野先生がそれ以上に大切にしているのは、「理科という教科特性を生かしたコミュニケーション」を、「WEEKLY SCIENCE」を使って生み出すことだという。
「教科書を進めているだけでは、科学的なアプローチやものの考え方といった、理科の本質に迫るようなテーマや最新の科学ニュースについて、生徒と教師が考えを語り合う機会ってそんなにないと思うんです。でも、授業の初めに『WEEKLY SCIENCE』を配ることで、『生命って何だろう』『原発についてどう思う』なんて会話が自然にできるんですよね。学問の本質に関わるような議論を交わすことこそ、生徒にとって何よりの刺激になり、それが授業の活性化につながると感じます。教科でできることってまだまだあると思うんです」
授業の取っ掛かりとして始めた議論がヒートアップし、授業時間を半分近く費やしてしまうこともある。だが、興味・関心を持った生徒がより高次の学びへステップアップし、自律的な学習スタイルを獲得するには、時としてそのような要素も必要なのではないだろうか。実際、水野先生のところには、記事の内容に関わる生徒からの質問がしばしば寄せられる。記事の内容以上のことを自分で調べて、更に深い内容を質問してくる生徒もいるそうだ。
1枚のプリントをきっかけに、水野先生のクラスでは今日も生徒との熱い議論が交わされている。そこには授業本来の姿があるのかも知れない。
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