ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 法科大学院で変わる進路指導
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出身大学・学部を問わないオープン・フェアな入試
 一橋大法科大学院においても、全入学者に対する他学部出身者または社会人経験者の割合は42%を確保。年齢構成も下は20代から上は50代と幅広い。同大大学院法学研究科の松本恒雄教授は「初年度の滑り出しは順調」と満足気だ。
 「本学では選考に際して、出身大学や司法試験の受験経験は一切問いません。法学部以外の学生に対する優遇措置も設けていませんから、どこまで多様な人材を集められるか、正直不安はありましたね。しかし、結果的には幅広い層の学生が集まったことで、社会的要請には応えられたのではないかと思います」
 もっともオープン・フェアな入試に徹したために、同大法学部からの内部進学者はわずか3割にとどまった。
 一般的に、法学部から法科大学院への内部進学率が高くなれば、大学院進学に有利というイメージが定着し、学部人気も高まると思われる。そのため、大学はできるだけ自校の法学部生を法科大学院に入学させたいと考えていてもおかしくない。しかし一橋大に限らず、自校の法学部生に対して特別枠を設けたり推薦制度をつくるなどの優遇措置を取っている法科大学院は多くないようだ。
 中央大法科大学院も客観的な学力による選抜を重視する大学院の一つだ。
 同大では入学者327名に対して、同大法学部出身者は108名。これまでの法曹養成の実績を考えると、それほど高い数字とは言えない。
 中央大大学院法務研究科の森勇教授も、自校の学生に対する優遇は「あり得ない」と断言する。
 「もちろん、できるだけ多くの本学部生に入学してもらいたいのはやまやまです。しかし、合否判定はあくまで本人の実力次第。05年度も今年度と同様に、フェアな入試で多様な人材を集めたいと思っています」

授業では高度な「知的バトル」が展開
 こうしたシビアな選考だけに、各法科大学院入学者の学力レベルは総じて高い。特に、「既修者コースはかなりのレベル」とは、関係者の一致した意見だ。
 「既修者コースには、司法試験の受験経験が豊富な学生が数多く入学しています。学部卒業後すぐに入学してきた者も、4年次に司法試験の短答式試験(※2)に合格している場合がほとんどです。現時点では、学部で若干成績が良かったという程度で、既修者コースに入学するのは難しいだろうと思います」(一橋大・松本教授)
※2 現行司法試験は1次試験(大学2年修了程度の単位取得者は免除)の後、2次試験として短答式試験→(短答式合格者に)論文式試験→(論文式合格者に)口述試験が課される。短答式試験では、法律知識及び法的な推論能力を有するかどうかを判定する。
 法学部出身者が3年制の未修者コースに入学しているケースは多く、必ずしも「法学部卒=既修者」とはならないのが現状のようだ。
 優秀な学生が集まった既修者コースの授業レベルは非常に高いという。
 法科大学院の教育の中心は、判例などを素材に学生と教員が議論を繰り返しながら双方向で学ぶ「ソクラテス・メソッド」。議論を重ねることにより理解を深め、論理的思考を身に付けていく手法である。
 「授業では学生の方から、テーマに対する指摘や質問がどんどん飛び出してきます。既修者コースで扱うようなレベルの高いテーマになると、幾通りもの解釈が考えられるのですが、時には教員が想定していなかったような質問や指摘も出てきますね。こうした『知的バトル』を通じて学生と教員が刺激し合い、お互いを高め合っている。法学教育の原点はこういう所にあるのだと、改めて感じましたね」(中央大・森教授)

「詰め込み主義」から脱し多角的な視点を養う
 ところで今でこそ、こうした「知的バトル」が展開されている中央大だが、開学当初はやや趣が異なっていたという。

 「最初は、様々な判例と学説を結び付けて、説例を多角的に検討していこうとしても、『結局結論は何なんですか』というように、すぐに『答え』を求める学生が少なくないなという印象を持ちました。ディスカッションを通して、様々な理論や判例を結び付け、多角的に検証できる力を訓練しているのだという点を、学生が理解していなかったのでしょう」(中央大・森教授)
 今回の司法制度改革は、質・量共に法曹の充実を図るだけではなく、従来から指摘されてきた司法試験合格のための「詰め込み主義」の弊害を是正する狙いもある。実際、超難関の司法試験に合格したものの、その後法曹として進むべき道を見つけられずに悩む人も少なくないという。
 「現行の司法試験を目指していた人たちの知識レベルは非常に高い。しかし、それを上手に使うスキルが身に付いていないんです。予備校などでひたすら『覚える』ことだけを中心に勉強をしてきた結果、『結論主義』に陥ってしまったんですね」(中央大・森教授)
 それが、授業でディスカッションを繰り返すうちに、一つの事例について様々な角度から考える力が身に付き、前述のようなレベルの高い指摘や質問が飛び交うように変わってきたのである。
 詰め込み主義の勉強を繰り返してきた現行司法試験受験者も、物事を多角的に考察する力を「潜在的に持っていた」と森教授は語る。実践的な教育の場として、学生の埋もれた力をいかに引き出していくか、各法科大学院の教育力が問われている。


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