四国の西端に九州に向かって突き出した日本一長い半島(佐田岬半島)がある。その先端に、生徒数百六十名ほどの三崎高校があり、二年前まで三年間勤務した。
その高校で、ボランティア活動を公園や河川の清掃といったものではなく、もっと地域経済に関われるものにしたいと考えた。この地域は漁業と柑橘栽培が盛んであるが、過疎化と高齢化が進んでおり、高校生が若者(労働力)として一番多いというのが現状である。そこで、地域特産の「清見タンゴール」園の下刈り(七月)、袋掛け(十二月)、収穫(三月)を全校生徒で半日ずつ三日間、高齢で柑橘栽培が思うようにできない農家を対象に実施した。
蜜柑の収穫作業を、卒業を控えた三年生も二月二十日過ぎに一日だけ実施することにした。三年生のこの時期は、数日後には大学入試がある生徒や就職の決まった生徒がほとんどであるし、しかもかなりの重労働なので、欠席者が多いだろうと思っていた。にもかかわらず全員が参加したのには驚愕した。十数か所に分かれての作業を終えて帰ってきた生徒は、どの顔も満足そうであった。多くの生徒が、おじいちゃんやおばあちゃんから、「これで来年も蜜柑作りをする元気が出た。また助けてね」と涙ながらに言われ、嬉しかったようである。
普通科高校の生徒でありながら、農作業で地域の役に立つ、それも労働者として、多少なりとも経済的に貢献したという実感は、公園の掃除などのボランティア活動だけでは得られないものであろう。心配した大学入試も何の影響もなく、希望する大学に合格できた(ちなみに、この町には塾もなく、多様な進路を希望する生徒がいるため、進学中心の学習体制にしているわけでもないのに、他の進学校と言われる高校には合格できなかったであろう生徒も、毎年数名は国立大に堂々と合格している)。
現在私は、ほとんどの生徒が大学進学を希望し、進学に対する保護者の期待も強い大規模校(生徒数、千百人ほど)に勤務している。眼前の成績に関係することなら一生懸命するという打算的な生徒やひ弱な生徒を育てたくないという思いから、その打開策の一つとして二十キロをただ歩くという耐久徒歩なるものを今年5月に実施した。三年生にはかなりの欠席者が出るのではないかと危惧していたが、それは当たらなかった。たった二十キロ、されど二十キロ。達成感や充実感を感じていたようである。本校の生徒もなかなか見所があるなと喜んだ。
進路実現のためにしのぎを削る競争の中で生きる生徒たち。彼らもやりたいことを抑え、矛盾に苦しんでいるのではないだろうか。もっと明るく元気で、余裕を持って学業に取り組むことのできるたくましい人間の育成に努めたいと考える日々である。
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