Part1 識者に聞く 絶対評価に基づく指導が進化し始めた中学校 |
高校より一足先に、02年度から現行課程へと移行した中学校。絶対評価の導入や学習内容3割削減などを巡り、その当初においては様々な報道が行われた。だが、それから3年目の現在の状況については、十分な情報が伝えられていないのではないだろうか。教育行政や現場の動向に詳しい福岡大の陣川桂三教授にうかがった。 |
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1 「混乱期」を脱しつつある中学現場 |
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Q
絶対評価の導入や学習内容の削減など、この3年間には様々な変化がありました。現在の中学校の状況をどのように見ていらっしゃいますか?
A
私の所感では「混乱期を脱した」と評してよいと思います。現行課程への移行に際しては、絶対評価の導入に伴い、最低限到達すべき目標を質的に示す「評価規準」と、その達成の度合いを表すA・B・Cの「評価基準」を各学校で具体化する必要がありました。また、その評価方法の確立などの、多種多様な業務が中学校に集中し、移行当初の中学現場は、その作業や意識改革に忙殺されてしまった、というのが正直なところでしょう。実際、こうした現場の混乱を感じて、「絶対評価の導入で忙しいのは分かるが、そのために生徒をきちんと見ていないのではないか」といった不安も、高校側からはずいぶん出たように思います。
しかし、この3年間で、新しい制度や仕組みは中学校現場できちんと消化されてきたと思います。新しい状況を「当たり前」とした上で、教育活動の改善に取り組む余裕が現場に徐々に生まれてきているのではないでしょうか。 |
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Q
具体的にはどのような動きが見られますか?
A
まず第一に、絶対評価の定着により、「学力を付けるための授業」を行う技術が確実に向上したと思います。「良い授業をすること」という、これまでの漠然とした教師の目的意識が、絶対評価の導入により大きく変わりました。例えば理科の実験を行うにしても「回路を直列につなぐことができたらB基準、更に自分で並列につなぐことができたらA基準」などと、到達すべき明確な評価基準が定まってきました。また、こうした目標設定が毎回の授業で行われるようになったことで、1時間ごとの授業を大切にする意識も確実に向上しています。
第二に、習熟度別授業が広がったことが挙げられるでしょう。教育上の配慮から、生徒をセグメントすること自体に抵抗が強い義務教育段階でも、この数年で数学、英語などの単元の一部に「習熟度別授業」を取り入れる学校が急増しました。生徒の希望を踏まえた上で習熟度に応じた指導をすることが、理解を深める上で有効なこと、そして、そうした手法に保護者の評価が得られてきたことが大きいと思います。 |