ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 工学部教育の変化と工学教育・研究の展望
飯塚信
ベネッセ教育総研
主任研究員
飯塚信
Iitsuka Makoto
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大学改革の行方

工学部教育の変化と工学教育・研究の展望

大学は工学部教育に危機感を募らせている。
「学科が細分化されていて分かりにくい」
「大学での学びが将来にどのように生かせるのか見えない」
などの高校からの声がある他、入学後のミスマッチにより転部や退学をする学生も少なくないようだ。
05年2月号では、工学教育の改革の現状と工学研究の今後を概観し、工学分野の可能性、工学系学部に求められる学生の資質を探っていきたい。
【取材協力】
東京大大学院新領域創成科学研究科教授 雨宮慶幸
東京大大学院新領域創成科学研究科教授 伊藤耕三
文部科学省科学技術・学術政策局長 有本建男

Part1
工学系学部の現状と工学研究の可能性

工学系学部での学問内容や卒業後の進路が見えにくい
 日本の工学教育は、大きな転換点に差し掛かったと言われる。経済の停滞に伴う就職難の時代にあって、益々実学志向が強まり、更に高校段階から「ボケーショナリズム(職業主義)」優先の進路選択になってきている。職業的な知識や技術を身に付けたい、就職先がある程度保証される学問領域で学びたい、といった漠然とした要望や、進路情報の少ない中で安定を求めた医・歯・薬・看護系など資格直結型の進路志向は根強い。
 しかし、「工学部人気は横ばいまたは漸減傾向」「高校生・大学生でのモノ作り志向が減少」しているのは、工学系学部での学問内容や卒業後の進路の実態が見えにくいからだと言える。「工学系学部・学科情報の発信の充実」によって、工学部人気を回復しなければ、人材の育成に支障をきたすだろうと危惧する中・高等教育関係者は多い。
 では、理工系学部の人気は、実際どのように推移しているのだろうか。図1は、理工系学部と経済系学部それぞれの過去40年間に渡る入学志願者数・倍率の推移を示したものだが、これを見ると社会・経済情勢の変化に応じて、人気学部も変化してきていることが分かる。
図1
 1970年代末頃に、理工系学部志願者・倍率が減少している一方、経済系学部はほぼ横ばいであった。特に、80年代後半はバブル好況期と一致していることもあり、経済系学部の伸びが顕著である一方、理工系学部には大きな変動は見られない。バブル崩壊後の90年代初頭以降は、逆に経済系学部の人気は激減している反面、理工系学部の落ち込みは漸減程度に収まっている。そして、長期不況が恒常化した98年以降は両学部とも志願者数・倍率は同水準で推移し、ここ5か年は共に安定傾向にある。経済の進展と状勢変化の局面に受験生は敏感に反応し、人気・不人気の動静が変化しているのである。
 もっとも、工学系学部の合格者の平均偏差値はほぼ横ばいで推移している(図2)。しかし現時点においては、学力レベルは維持しているものの、大学全入時代を目前に控え、今後もこの数値を安定的に維持できるかどうかは、予断を許さない状況と言えるだろう。
図2

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