ベネッセ教育総合研究所
私の想い 一日に何冊の本を読んでいますか
東光正浩

福井県立羽水高校校長
東光正浩
Toko Masahiro
生年月日●昭和19年4月23日/出身地●福井県三国町/趣味●読書、登山、オリエンテーリング/座右の銘●人間万事塞翁が馬

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私の想い 6
一日に何冊の本を読んでいますか


私が
教員になったばかりの若い頃で、県立N高校に勤務をしていたときの出来事です。部活動では女子バレーボール部の顧問をし、放課後は毎日、狭い体育館で生徒と共にバレーボールの練習に明け暮れていました。そのようなある日、部活動も終わり、着替えも済ませ、急いで学校を飛び出し、秋も深まり暗くなっている田舎道を、時計を気にしながら駅に向かって走っていきました。発車間際の電車に飛び乗ると、乗客はまばらでしたが、S校長先生が本を広げて座っておられました。校長先生の前の席が空いていたので座ってしばらくすると、突然、「君は一日に何冊の本を読んでいますか」と声を掛けてこられました。私は一瞬何を聞かれたのか戸惑い、一日ではなく一か月あるいは一週間の間違いではないのかと思い「一日にですか?」と聞き返してしまいました。その時、校長先生がポツリと「一日に二冊は本を読まなければいけない」と言われたのです。その言葉が30数年経った今も耳に残り、離れません。
 私は、読書は元々嫌いな方ではなく、高校時代は放課後、毎日、学校の図書館に通う生徒であったことを思い出します。ただし、文学少年からは程遠く、随筆や歴史物、ドキュメント関連の本を主に読んでいたような気がします。しかし、就職して勤めが始まると、まとまった時間が取れなくて、本を手にする機会が徐々に減ってきてしまいました。

一昨年、
OECD(経済協力開発機構)のアンドレア課長が来日し、日本として今後推進すべき教育政策の方向性について、「高校生の読書に対する関心を高めること」を挙げられました。それは、日本の読書をしない高校生の割合が、加盟国平均の31%を大幅に上回る53%で最も高かったからです。
 ところで、「朝の読書」運動が全国的な広がりを見せています。この読書運動には、次の四つの原則があります。(1)全員で読む…生徒だけでなく教師も一緒に読む。(2)毎日読む…たった10分間であるが毎日読む。(3)自分の好きな本を読む…漫画、雑誌以外なら何でもよい。(4)ただ読むだけ…感想文など何も求めない。
 前任校でこの「朝の読書」を導入したところ、「本を読むのが楽しくなった」「文章を読む力が付いた」「心が落ち着き集中力が付いた」など、前評判通り生徒に好ましい効果が出てきましたが、「朝の読書」を通して、私自身にも大きな変化が起きていることに気付きました。それは今まで「暇があるときに本を読む」姿勢から「暇を見つけて本を読む」姿勢に大きく変わってきたことです。このところ鞄の中には常に数冊の単行本を入れ、時間があればこまめに取り出し、活字を追っている自分の姿があります。「一日に二冊は本を読まなければならない」心境にはまだ程遠いのですが、「本を読むのが楽しくなった」自分を、これからもっと大切にしていきたいと考えています。



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