ベネッセ教育総合研究所
ナレッジの継承 面接練習に保護者の力を活用する
根田敬一

秋田県立大館高校
根田敬一
Konda Keiichi
教職歴18年目。同校に赴任して4年目。進路指導主事。英語担当。

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現状を打開するヒントとノウハウ ナレッジの継承(6)
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面接練習に保護者の力を活用する
「保護者の力を学校教育に生かす」その具体策を探るべく、各校で試行錯誤が続いているが、なかなか突破口を見つけられない学校も多いようだ。だが、秋田県立大館高校では、夏休みも半ばになると、保護者が続々と「自主的に」学校にやってくるようになる。その背景には、根田敬一先生が始めたあるユニークな取り組みがあるようだ。


保護者を面接官に見立てた模擬面接を実施―
 教育活動に、何とか保護者を巻き込むことはできないのか――。「地域に開かれた学校づくり」が叫ばれる中、高校現場ではこのような問題意識を持つ教師が増えている。
 そんな中、秋田県立大館高校では、根田敬一先生の主導の下、04年度からあるユニークな取り組みが始まった。それは、保護者を面接官に見立てた、就職希望者向けの模擬面接の実施である。
 「本校には1学年140名のうち毎年50名程度の就職希望者がいるのですが、彼らに対するフォローは必ずしも十分ではありませんでした。事前の対策といっても、服装指導や通り一遍の面接練習くらいしかできておらず、より手厚いフォローが必要だと感じていました。そこで、地元企業で人事を経験された保護者の力を借りることで、実戦的な面接練習ができるのではないかと考えました。保護者=職業人なわけですから、そのキャリアを使わない手はありません。早速PTA会長に趣旨を伝えたところ、ご自身も協力するとの返事をすぐに頂くことができました」
 模擬面接は、学校求人がスタートする9月中旬を見据えて、8月の半ばからスタートする。実施日は、保護者が参加しやすい毎週土曜日に設定。教師+保護者数名を相手に、生徒一人当たり15~20分程度の模擬面接が実施される。多い生徒では、本番までに4、5回の面接練習を繰り返す。
 「日頃顔を合わせている教師だけではなく、『企業人』がいることで、生徒も緊張感を持って模擬面接に臨むことができたようです。また、面接の内容自体も、保護者が加わることで実戦的なものとなりました。教師が面接で聞くことといっても、『志望動機は何ですか』『高校時代は何に打ち込みましたか』といった域を出ませんが、保護者の方々の場合、同じことを聞くにしても、『当社の業務のどこに魅力を感じましたか』『あなたは当社のどの部署で活躍したいのですか』といった聞き方ができるんですよね。教師の質問にはスラスラ答えていたのに、保護者の質問になった途端、答えに窮してしまう生徒もいました」
 このような練習を繰り返し積むことで、生徒たちはインターネットで積極的に企業情報を調べたり、志望動機を自分の言葉に置き換えて考えるようになっていった。これまで質問内容に対する答えを暗記して対応していた生徒たちが、様々な角度からの質問に触れる中で、徐々に自分の言葉で対応できるようになっていくというのだ。そしてその成果は、いわゆる「難関企業」内定者の増加となって結実したのである。

生徒、保護者、学校をつなぐ波及効果
 だが、根田先生は、保護者による模擬面接の成果は必ずしも3年次の生徒に限定されたものではないという。特に、真剣に就職活動に取り組む先輩の姿を下級生に見せることは、学校全体の活性化にもつながるのだと考えている。
 そこで、大館高校では、2年生向けの就職ガイダンスの際に、面接練習の成果が特に優れていた3年生を呼び、壇上で模擬面接を披露している。もちろんこの際に面接官を務めるのも保護者だ。
 「日頃身近に接している3年生が、ハキハキと自分の言葉で自らの将来を語る姿に、2年生は少なからぬショックを受けます。『1年後はあのようにならなくてはならないんだ』と、思わせたかったんです。実際、就職活動に向けて3年生が生活態度を見直すようになると、自然と1、2年生の生活態度も改まってきます。このサイクルをこちらから仕掛けてつくり出すことで、学校全体の雰囲気を良くしていければと思っています」
 一方、一連の取り組みを通じて、学校の教育活動に対する保護者の理解が深まってきたのも事実。特に面接官として生徒と触れ合った保護者の間では、「今時の若者の物の見方や考え方に触れられてよかった」「学校の生徒育成への姿勢がよく分かった」といった声の他「家庭では子どもとほとんど会話がなかったが、将来のことを話し合うきっかけができた」という声もあったという。
 「家族としてではなく、『企業人と生徒』として向き合ったことが、双方にとって新鮮だったようです。なかなか面と向かって聞きにくい職業観や人生観を互いに知ることができ、互いの理解を深める場になったと思います。生徒、保護者、学校の三者が互いに歩み寄れるような場を、今後ともうまく教育活動の中に取り込んでいきたいですね」
 面接練習に保護者を巻き込む――。根田先生のアイディアから始まった取り組みの先には、大館高校ならではの保護者連携の形が見え始めている。


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