ベネッセ教育総合研究所
特集 高大連携の未来形
高田正規
ベネッセ教育研究開発
センター特別顧問
高田正規
Takata Masanori
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本誌提言
「自己効力」を高めることが高大連携の鍵
前パートでは、「双方向型の高大連携」の必要性を考察した。
では、そのような高大連携の場を、生徒・学生の「教育の連続性」の観点から 有効なものとしていくためには、どのような視点が求められるのだろうか。 ベネッセ教育研究開発センター特別顧問の高田正規に、その課題を聞いた。


高校生・大学生は「自己」をどう捉えているか
 中央大・群馬大のケーススタディで見たように、「高大接続」は学習内容や学習方法を柱にした学習活動の接続に踏み込みつつある。これに伴って、大学入試においてそれぞれの大学・学部が求める学力要件を提示する取り組みが拡大していくだろう。
  現在、学びに向かいにくい青少年の増加、言わば「モチベーション・クライシス」が高大共通の解決課題になっている。この課題に応えるためには、教育プログラムの改善のみならず、学びに対する強い意欲を育てるために、高校生・大学生が自ら学びの目標を設定したり、社会・他者への役立ち感を獲得したりするなど、人間的な成長を促すための教育活動を実現することが求められる。そのためには、ビジョン(見通し)とパフォーマンス(到達点)を定める必要がある。
  本稿では、青少年の自己概念の特徴と学習行動に関する調査データに基づき、課題解決に向けた視点を整理したい。
1 自分自身を肯定的に捉えにくい
 高校生や大学生は、自分自身の価値観・行動様式をどの程度肯定的に捉えているのだろうか。アイデンティティ(自己概念)確立度のクラスタ分析により、その優れた側面と欠けている側面を抽出してみた。
  図1は、30項目からなる設問の自己評価に基づき、11のクラスタごとに整理したものであるが、以下の3点が当面解決を迫られているテーマであることが読み取れる。
▼図1 青少年の価値観・行動特性の傾向的特徴
図1
▲クリックすると拡大します。

(1)自己主張したいのにできにくい
 まず「自我の確立度」に関わる項目に着目すると、「自己主張」「自己肯定」など「達成感や効力感を持ちやすい傾向」に関しては肯定度が高い。その反面、「自信」「自立性」など「自分らしさに基づいて、物事に挑戦しようとする傾向」のスコアは低い。特に、「自信」(周りのことを気にせず自信を持っている)のスコアが高校生・大学生共に極めて低いことが注目される。多くの高校生・大学生が「自己主張したいのに、周りの評価が気になってできにくい」という心理的藤の状態に置かれている。

(2)他者に対する役立ち感を持ちにくい
 「社会性の確立度」に関わる項目を見ると、「協調性」「積極性」「社交性」など、「居心地のよい対人関係を保持しようとする傾向」は肯定度が高い。しかし、「社会貢献」「役割遂行」など「他者や社会に働き掛けようとする傾向」はおしなべて弱い。これは、パーソナルな人間関係や他者と関わる生活体験の希薄化により、自分のロールモデル(理想像、憧れの存在)を周囲に見つけられず、他者との関係性の中で自分の「役立ち感」を持ちにくい状況を示している。
(3)群れの中に埋没し、自分らしさを発揮しにくい
 「居心地のよい対人関係を保持しようとする傾向」が強い中で、「自分らしさ」(自信・自立性)という価値基準が明確でないことによる同調志向が働くと、仲良しグループとしての「群」に埋没し、「自分らしさ」を発揮することができにくくなる。この事が、かえって自我(自分らしさ)の確立を妨げることにつながっている。
 以上、データを基に、高校生・大学生が三つの心理的 藤を抱えた中で生活している状況を整理した。こうした点から考えると、ポジティブな自己イメージ(概念)を描くことについて、学校教育が必ずしも適切に機能していないのではないかと思われる。
  自分自身を肯定的に捉え、他者や社会に働き掛け、その結果、自分自身の「役立ち感」が得られなければ「やる気」は生まれないし、モチベーションを持続させることは難しい。


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