ベネッセ教育総合研究所
現場と共に考えるQ&A
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現場と共に考える 生徒指導Q&A
不登校
学校から遠ざかってしまった生徒とどう向き合うか?


Q:不登校の生徒にどう接すればいいか
 入学時には特に変わった様子の見られなかったある女子生徒が、1年の夏休み明けから不登校になっています。特に勉強ができないわけでもない、友達付き合いが苦手なわけでもない、ごく普通の生徒でした。
  彼女が不登校になってから、1週間に1~2回くらいのペースで自宅を訪ねていますが、なかなか本人とじっくり話をすることもできないでいます。どうして、不登校になってしまったのか、本人自身もよく分からないようです。
  一昔前でしたら、何らかの明確な問題があって不登校になる生徒がほとんどでしたが、この生徒のように「何となく」不登校になってしまう生徒が、近年本校でも増えているように思います。
  こうした生徒にどう接したらいいか。何か良いお知恵がありましたら是非お聞かせいただきたいと思います。
A:語り掛けから始めることの大切さ
 かつて、何の前触れもなく(こちらが感じられなかったのかも知れないが)、突然登校しなくなった生徒がいた。すぐに家庭訪問をしたが、居留守を使われて接触することはできなかった。本人と直接連絡を取ることができず、話は全くできなかった。仕方がないので、ほぼ1週間に1度くらいであったが、家に行き、呼び鈴を鳴らしては、「来たよ」とだけ言って帰ることを続けた。これを繰り返していくうちに、窓から顔を出す、玄関口まで出るなどを経て、約2か月後、ようやく家の中で話ができるようになった。
  この生徒は成績だけでなく、生活のすべてに自信を持てていなかった。この経験から、方法は様々でも「気にしている」というサインを送り続けること、最初から不登校の理由を聞くのではなく、「何か困っていることはないか」「私にできることはないのか」という語り掛けから始めることの大切さを学んだ。
  この事例を基に、現任校のスクールカウンセラーと話し合ってみた。個人的には参考になったので、2点内容を紹介しておきたい。
(1)サインを送ることは大切だが、生徒がサインを受け取ったからといって、すぐに、その先に成果を見いだそうとすると失敗する可能性が高い。
(2)「教育」という枠の中だけで不登校を扱うのは難しい。「種を蒔く」気持ちで接することが大切ではないか。
男性。教職歴27年目。
A:その生徒一人の心に寄り添って動くことしかない
 直接・間接的に関わった生徒などいろいろなケースを見ても、原因はその生徒それぞれが持つ複合的な状況にある。共通している点があるとすれば、多くが、真面目で、ある意味で純粋すぎる心の持ち主であるということ。自分の心と一生懸命向き合っていて、自分の周りの世界に合わせようとしているけれども、自分を周囲のペースに合わせるのに余計に時間と労力がかかったり、時にはもがいた結果合わせられずに終わってしまったり、自分の心と向き合うのに一生懸命になるあまり、気がついたときには外の世界とペースがずれてしまっているケースなどがあった。 
  カウンセリングの専門家によれば、「家庭での父性欠如が原因にある場合が多い」とのこと。逆に「強すぎる父親とおろおろする母親」というパターンもあるそうだ。原因は様々だと思うが、不登校の生徒から聞いた言葉が忘れられない。「周りからいろいろ原因を聞かれたが、本当に自分でもなぜ行けないのかよく分からなかった。ただ、行けなかった」
登校の生徒と出会った最初の頃は、まず生徒本人の努力不足を責め、家庭を責め、そして自分を責めていた。家庭訪問を繰り返しても、保健室登校等の対応をしても、事態は急転も好転もしない。そのうちに、カウンセリングに頼れば何とかなるはず、とワラにもすがる気持ちで生徒や保護者に思春期外来や専門家を薦めた。もちろん、速効性があるはずがなく焦りが募った。そしてまた本人、家庭、教師自身、更にカウンセラーの責任にしてしまうという悪循環に陥った。
  「時間がかかる」「いろいろ言わず、本人がその気になるまでじっくり待ちなさい」という専門家の言葉にすがって、じっくり待つ。しかし、欠席や休学をしている場合、いつまでも待っていられない。ギリギリまで「待って」、最後の最後に出席に関する規則に従い、期限切れとなってしまう。本人も家庭も、最終的には学校から放り出されてしまう。益々教師の無力を突き付けられる。
  不登校状態を経験すると、おそらく本人も家族もほぼ一生その気持ちや経験と付き合うことになるだろうが、学校は3年~4年で形式上の付き合いが終了してしまう。「保健室登校」その他の制度があっても、一時的に保護するだけではないか。
  私自身は、専門家のアドバイスを受け、専門書も読み、ホームルームを巻き込み、先生方と協力し、学校の対応も受けながら、出来る範囲で対応するしかなかった。
  目の前の一人の生徒に対しては、明確な答えも処方せんもマニュアルもない。その生徒一人の心に寄り添って動くことしかないということだ。本人が持って生まれた性格・人格を使って、自分が置かれた環境で生きていくことを学び、生きていける力を持てるようになる、その過程を時に見守り、時に本人や家族に手を差しのべる。そして待つ。もしかしたら一生待つ。それが今の私の答である。
女性。教職歴20年目
A:毎日、生徒一人ひとりの変化をしっかり見る
 本校にも不登校の生徒は数名いる。私も過去に不登校の生徒の担任をしたことがあった。
  その生徒は、高校に入学して1学期の終わり頃に急に不登校になった。当時原因がまったく分からず悩んだが、とにかく生徒に接触しようと思い、ほぼ毎日自宅を訪問した。紆余曲折はあったが、その生徒は再び学校に来てくれた。何事にも代えがたい喜びを感じたのを今でも覚えている。その後生徒が休み始めたころの様子を生活状況からテスト結果や誰と仲が良かったかということまで振り返ってみた。
  するとテスト結果などは問題なかったのだが、休み出す前に遅刻が目立ってたことに気付いた。学校カウンセラーの先生に聞いたのだが、不登校の生徒は、「SOSを身近な人に分かってほしい」と無意識にサインを送っていることが多いそうだ。もしかしたらあれがそのサインだったのかも知れない。それから私は、朝のHRを大切にしている。当たり前のことだが、しっかり生徒たちの顔を見て遅刻や休みの生徒には理由を聞き、何かありそうなら声を掛け、フォローしている。
  不登校の原因は様々で対応は難しいと思う。どんなに本人や周りが頑張っても不登校になってしまうこともあるだろう。私の経験からしか言えないことだが、やはり「毎日、生徒一人ひとりをしっかり見る」ことが大切なのではなかろうか。
男性。教職歴11年目。


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