大学改革の行方 経済・経営系学部の改革の現状

山内弘隆

▲一橋大大学院商学研究科長

山内弘隆

Yamauchi Hirotaka

1955年千葉県生まれ。慶應義塾大大学院商学研究科博士課程修了。中京大商学部専任講師、同大経済学部専任講師、一橋大商学部助教授を経て現職。著書は『交通経済学』(有斐閣)などがある。

櫻井久勝

▲神戸大大学院経営学研究科長

櫻井久勝

Sakurai Hisakatsu

1952年兵庫県生まれ。神戸大大学院経営学研究科博士課程後期課程退学。神戸大助手、同大教授を経て現職。専攻は財務会計・財務諸表分析。著書は『会計学入門』(日本経済新聞社)など。

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大学改革の行方
経済・経営系学部の改革の現状

6年一貫教育への体制整備が進められる薬学部系統、法科大学院の設置ラッシュにわいた法学部系統など、ドラスティックな教育改革が進められる学問分野がある中、一見「無風状態」に見える経済・経営系学部。しかし、大学院重点化の進展、大学全入時代を見据え、同学部系統にも改革の機運は高まりつつある。一橋大、神戸大の取り組みを通して、経済・経営系学部の改革の現状をレポートする。

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図

Chapter1 学部改革で学生の満足度を高める

専門科目の早期履修で学生のモチベーションを維持

 経済・経営系学部の改革は見えにくいと言われる。行政主導の大がかりなプロジェクトも、医師や弁護士、教師のように専門性に対する資質を問い直す大きな世論の動きもないからだ。
  だが、同学部系統に課題が全くないわけではない。その課題を弊社「大学満足度調査」()から明らかにしつつ、改革の動きが顕著であり、かつ大学満足度の高い2大学の取り組みを通して、同学部系統における改革の様相を概観してみたい。

)弊社が大学生を対象にして行った全国調査。学生が学びに向かう要因、学生の満足度が高い要因になどを多角的に分析。04年度調査は、14,582名の集計数。

▼図1 クリックすると拡大します。
図1

  まず、図1は経済・経営系学部の進学動機をまとめたものだ。これを見ると、全系統の平均と比較して、「学問研究」「専門的な知識」など知的・実利的な学びを志向する意識が低い反面、「安定した職業には学歴が必要」「社会に出るのが不安」「友人も行く」「何となく」など、学歴尊重や同調志向、モラトリアム志向などが強いことが分かる。
  経済・経営系学部は就職の際、一般的に「つぶしが利く」学部と言われてきた。幅広い分野の業種・職種に対応できるという意味だが、反面、将来の職業を決めかねている学生にとっては「とりあえず経済学部に入り、就職は3年後に考えよう」という考えを招きやすい。大学入学前の目的意識の醸成、入学後のモチベーション維持が困難であると言われる背景が、本データからうかがえる。
  こうした学生の意識を向上させるために、低学年次からの専門科目履修を可能とするカリキュラム改編や、導入期ゼミの設置等を進める大学が増えている。例えば、神戸大経営学部では98年の大学院重点化に伴い、従来の経営学科・会計学科・市場システム学科・国際経営環境学科の4学科を経営学科の1学科に再編。更に、専門科目を専門性のレベルごとにI~III群に分類し、1年次から段階的に経営学の専門知識を身に付けられるようにした。
  神戸大学ではそれまで、4年の学部教育を前半の1年半と後半の2年半に分けて、前半を全学共通の教養教育中心、後半を経営学の専門教育中心に展開してきた。しかし、98年の改組で、カリキュラムを前記の3群構成に変え、1年次から経営学の専門科目を学べる体制を整えたのである。その背景を、神戸大大学院経営学研究科長の櫻井久勝教授は、次のように述べる。
  「従来は、前半の1年半を教養教育中心に充ててきましたが、高校の延長のような勉強に対して、近年、学生アンケートを通して『せっかく経営学部に来たのだから、早い時期から専門的な学習をしたい』という要望が強くありました。そこで、必修科目として経営学基礎論、会計学基礎論などの科目を設定し、学生のモチベーションの維持・向上を図っているのです」
  こうした、学生の専門志向に対応したカリキュラム改編を実施している大学は少なくない。一橋大商学部でも、数年前にカリキュラムの改訂を行い、低学年から専門科目を学べるようにした。商学を学ぶ上で必要な「○○通論」と呼ばれる通論系の必修科目の多くを選択制にし、幅広い学問体系の中から基本的な考え方や思想を採り入れて、学生の興味・関心に合った学びを促しているという。


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