千の教育 千の実 「校風」を考える契機をくれた一書

林誉樹

▲愛知県立豊橋西高校校長

林誉樹

Hayashi Takaki

生年月日:昭和30年3月28日
出身地:愛知県田原市
趣味:絵画鑑賞、ハーブなどの園芸
座右の銘:天は自ら助くる者を助く

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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「校風」を考える契機をくれた一書

 生徒諸君と一緒に積極的に豊橋西高校の校風をつくっていきたい。校風がその学校の文化であるとするならば、諸君の姿勢によって文化の質は決まります。諸君が学校での活動に対して受身になり自発的なものを失ってしまうと、この学校の文化は活性化しません。逆に、積極的に文化の創造者のように前向きに立ち振る舞えば、それが西高の校風となっていくのです」
  これは、05年度の一学期始業式において述べた言葉です。
  愛知県立豊橋西高校は、豊橋市西部の干拓地に開校した創立23年目の普通科高校です。03年度から情報活用コースが導入され、制度面から学校の特色づくりが行われています。しかし、「豊橋西高校の校風は」と考えると、これといった答えは出てきません。
  私が「校風」という言葉を意識したのは15年ほど前、愛知県立時習館高校の教諭だったときのことです。当時の校長平井眞一先生から頂いた本『いまなぜ「校風」か』(武良竜彦・関塾教育研究所共著/ダイヤモンド社刊)を読み、教職にある身として大きな影響を受けました。
  その頃の私は、教科指導、クラス運営、部活動など学校の仕事をほぼ理解し、教師として自信を持ちつつあるときでした。しかし、今になって思えば「生徒をいかに育てるか、そもそも教育とは何か」という根本的な問いに対して明確な答えを持たないまま学校教育に当たっていたような気がします。そのようなときに「教育とは文化の伝承である」という明快な記述から始まるこの本と出会い、麻布、開成、慶應義塾、桜蔭などの有名私立校の教育理念や校風の紹介に、一種の憧れのようなものを抱きながら読んだ憶えがあります。
  この本には、次のような一節があります。「教育はミーム(文化遺伝子)というものの社会的な継承であり、ミームの質が子どもたちの成長を大きく左右する。家庭教育にあっては、父母の生き方や生活態度や行動様式といったいわゆる『家風』が子どもたちの成長に大きな影響を及ぼす。同じように学校教育にあっては、教育理念に基づく制度文化・教師文化・生徒文化と呼ばれる『校風』が生徒の人格形成に大きな影響を与える。名門有名私立校の創立者たちが高々と教育理念を唱え、ロマンを掲げて独自な校風づくりに心血を注いだのも、そうしたミームの大切さを教育者として熟知していたからに他ならない」
  現在、公立高校では学校の特色づくりが積極的に推し進められています。同じ県立学校であっても、その学校の置かれた環境や状況は大きく異なり、学校教育に対する保護者や地域の方々の理解や期待は時代と共に変化しています。
  学校経営に携わる者として大切なことは、学校の置かれた環境状況を的確に把握し、学校独自のミッションを明確にすると共に、それを実現するためのビジョンを持つことです。まさにこの過程を通して学校の校風づくりは始まります。
  『いまなぜ「校風」か』。学校経営をする立場になった私にとって、いつも手許にある大切な一冊です。


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