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株式会社堀場製作所会長
堀場雅夫
HORIBA MASAO
ほりばまさお◎1924年京都府生まれ。京都帝国大理学部物理学科卒。大学在学中に堀場無線研究所を開設。1953年に堀場製作所を設立。「おもしろおかしく」を社是とする同社は、分析・計測機器の総合メーカーとして多彩な製品を世界に送り出してきた。04年、分析計測の研究に取り組む国内外の優れた研究者を支援する堀場雅夫賞を創設。03年より総合科学技術会議・科学技術関係人材専門調査会メンバーも務める。著書は『イヤならやめろ!』(日本経済新聞社)、『「好き」にまかせろ!』(PHP研究所)など多数。1998年毎日経済人賞受賞。 |
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SSH スペシャル インタビュー 2nd viewpoint 産業界が見つめる今、未来 |
教育の原点は、生徒の可能性を「引き出す」ことにある |
新しいものを創り出すことができる力を持った人材はいかにして生まれるのか。目の前の疑問に楽しみながら挑む意志を育むための教育とはどのようなものか。高校教育との関わりも多く、地元京都市内の高校の学術顧問などを務め、精力的に教育への発信を重ねる堀場雅夫氏が産業界の立場から語った。 |
飽くなき探究心と情熱が必要 |
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―堀場製作所の設立以来、長年に渡って技術の最先端の現場で若い技術者と接してこられた堀場さんから見て、若者の入社時の能力や気質などは変わったと思われますか。
堀場 当社を志望する若者を見ていて感じるのは、彼らの中で二極化が進んでいるということです。小さい頃から理系の分野が好きで、大学も興味のある学部・学科を選び、自分の能力を発揮できる職場として当社を選んでくるタイプと、有名企業だから、給料が良さそうだからといった理由で「何となく」来るタイプです。もちろん、当社としては前者の学生を採りたいのですが、数が少ない。
採用面接では「なぜ堀場製作所なのか」「入って何をやりたいのか」「あなたにとって生きがいとは何か」といったことを徹底的に聞いていきます。大学で何を学んできたかというスキルは必要条件ではありますが、十分条件ではありません。それよりも「仕事に情熱を持てるか」「『おもしろおかしく』仕事に取り組めるか」といったことの方がはるかに大事です。入社後、社員教育や実際の仕事の現場でも、機会あるごとにそういう意識を持つよう働き掛けています。
―堀場さんは、ご自身が医学博士号をお持ちですが、理系の研究者や技術者に必要な資質は何だとお考えですか。
堀場 飽くなき探究心と情熱、これに尽きると思います。世の中には昔に比べてはるかに豊富で高度な情報が溢れていて、書籍やインターネットなどを通じてそれらを手にすることができます。海外の大学や大学院に留学するのも昔に比べるとそれほど難しいことではありません。探究心や情熱さえあれば、いくらでも自分の興味の世界を広げていくことが可能なのです。
学問に対する探究心や情熱は、一朝一夕で身に付くものではありません。私は、全ての学問は、「哲学」がベースになっていて、理学も医学も、人間の生き方を追究する「哲学」の一分野だと考えています。小中高と続く一連の教育の中で、「人間の生き方とは何か」「この世に生を受けた意味とは何か」「何をやって生き、何を成して死んでいくのか」「本当の幸福とは何か」といった真理の探究を根底に据えて、その上で各教科の教育をしていくべきだと考えていますし、著書や講演の中でもアピールしています。現代の日本の教育は、哲学的なものの見方がすっぽりと抜け落ちていますが、本当に子どもたちの個性を伸ばす「教育改革」をするのなら、「人間教育」にまで踏み込んだ、思い切った改革が必要だと個人的には思っています。 |
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