高校時代には化学部に入っていました。実験によって現象を実証するのが好きだったからです。そんな私が心理学の道に進むきっかけとなったのは、3年生のときに読んだフランスの言語学者のポール・ショシャールが書いた『人間の生物学』でした。後書きに書かれていた「人間に興味のある人は、あらゆる思想的な立場を離れ、生物学的な人間像を客観的に理解すべきである」という一文に、目から鱗が落ちる思いがしました。私は人にも興味がありましたが、生物学的に人間を捉えるなどとは考えたこともなかったからです。人間を生物学的に捉えるには何を学ぶべきだろうか。そう考えるうちに、脳の働きや心の動きを研究する心理学に自然と関心が向きました。
心理学の中でも、私が特に惹かれた領域が、人間が言語を習得する過程などを学ぶ発達心理学でした。以前から言葉に対する興味が強く、周囲の会話に耳をそばだてる習慣があったからです。1冊の本との出合いから、大学では発達心理学を専攻し、現在までその研究を続けています。
私の研究室では、誕生から死までの間に、人間がどのように発達するのかを研究しています。中でも、言語と認識に関するテーマが中心です。研究の多くは日常の素朴な疑問が出発点となります。そういう疑問を得るためには、毎日を漫然と過ごさずに、周囲の出来事や人々の振る舞いに敏感でなくてはなりません。そして疑問が生じたら、「どうして、このようなことが起こるのだろうか」とじっくり考える。その際には、自分を内省することも研究の一部となります。心理学の面白いところは、自分自身が被験者になれるところでもあるのです。 |