教科指導最前線・国語

田口耕平

北海道帯広柏葉高校
田口耕平

Taguchi Kohei
教職歴25年目。同校に赴任して15年目。3学年副主任。「来た球は打つ!どんな球(課題)でも、来た球には臨機応変に対応できる生徒を育てたい」

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教科指導最前線

国語

文学の楽しみ方を伝えることで生徒の生きる力を育てる

大学入試で必要な力を育成すると同時に、国語の授業を通して生徒の生きる力を育てたい――。
このような思いで独自の授業を展開する、帯広柏葉高校の田口耕平先生。受験に対応できる力と生きる力をどうバランスよく身につけさせるか、その方法をうかがった。

小説を読み解く楽しさとコツを生徒に伝える

 帯広柏葉高校の田口耕平先生が、受験を意識した授業から、生きる力を育む授業へと切り替えたのは、1995年のこと。日本中を震撼させたオウム事件がきっかけだった。
 「オウム事件は、若い信者が一つの限定された価値観に取り込まれ、引き起こした惨事です。世の中には答えは一つではなく、多様な生き方や価値観があることを生徒に伝えていくべきだと痛感しました。国語の教師である私は、多様な生き方が描かれている『文学』を通して、これらを伝えようと思ったのです」
 受験に対応した授業では、正答を効率的に導き出させるため、文章を味わいながら読むよりも、いかにスピーディーに大事なところだけを抽出しながら読むかが重要だと指導する。しかし、文学には、問題に取り上げられる箇所以外に、生き方のヒントとなる、人間の面白さや奥深さが描き出されていることが少なくない。「受験に対応できる力と、生きる力をどうバランスよく授業で身につけさせるか」が、田口先生の課題となった。
 その解決方法の一つとして、「文学を味わうことと、問いに対して一つの解を求めることは別物だと生徒に明言し、二重性のある授業を行うようにしている」と、田口先生は話す。例えば、現代文(小説)の授業。知識の積み重ねが大切な事柄は、小テストを繰り返し、定着させるようにしている。一方で、小説を読み解く楽しさを伝えることも忘れない。
 「小説を読んでなぜ面白いと感じるのか。それは、読者はストーリーだけではなく表現のテクニックに惹かれるからなんです。登場人物に関する情報を、最初からすべて描くのではなく、少しずつ見せて読者の興味を喚起したり、一つの言葉にいくつもの意味を込めていたり。このような表現のテクニックを教えることで、更に豊かに文学を味わえる。授業の説明の端々で、伝えるようにしています」
 3年生の選択科目である「文章表現」でも、スタンスは同じだ。夏以降は本格的な小論文指導を行うが、それまではさまざまな方法で「文学や表現の面白さ」を伝える。ある授業では、野口英世の母・シカが英世に宛てた手紙と、整った文章で書かれた手紙を読み比べ、どちらがなぜ面白いかを生徒に考えさせた。
 「生徒は100%、シカの手紙が面白いと言います。足りない表現が多いけれども、それがかえって人の心を打つと言うんですね。なぜ面白いのかがわかれば、生徒は自分で文章を書く際、そのエッセンスを文章に組み込むことができるんです」と田口先生。
 また、生徒に成功談と失敗談を書かせ、どちらが面白いかを判断させる授業も行った。生徒が面白いと感じたのは失敗談だ。
 「生徒は、人間の面白さは成功より失敗の中から読み取ることができるとわかったと思います。小論文のヒントになるだけでなく、『人の魅力』を考えるきっかけにもなります」
 もちろん、文章も書かせる。用紙として使用するのは、名刺サイズの紙切れだ。昨今、文章を書くのが苦手な生徒が少なくないといわれるが、田口先生の授業では、多くの生徒が小さな文字で用紙いっぱいに文章を綴る。
 「生徒が携帯電話でメールを頻繁に交換するのを見てもわかるように、生徒は『表現したい、個性を発揮したい』という思いを持っています。その気持ちを大切にするため、最初は原稿用紙ではなく、メールと同じ感覚で書ける小さな紙に書かせます。そして、私が必ず全員分読んで褒める。きちんと反応することを繰り返すと、生徒の意欲も高まり、徐々に書くことが苦ではなくなっていくのです」
 生徒の書いた文章を、授業で発表させることもある。「同じテーマでも、さまざまな考え方があるんだと理解する良い機会になります」と田口先生は言う。

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