10代のための「学び」考

久保正彰

久保正彰

くぼ・まさあき
1930年広島生まれ。アメリカ・ハーバード大学卒業、東京大大学院人文科学研究科修了、成蹊大文学部助教授、東京大文学部教授、同名誉教授、東北芸術工科大学長などを歴任。07年10月から日本学士院長を務める。04年、瑞宝重光章受章。現在、諸国学士院協賛の下に進められているラテン語の大辞典の作成に参与する。主な著書に『ギリシァ・ラテン文学研究』(岩波書店)などがある。

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10代のための「学び」考

久保正彰

日本学士院長
学問に情熱を燃やし続けた先人の想いを解き明かす

 戦後、日本人として初めてハーバード大学を卒業し、日本における西洋古典学の地平を切り拓いた久保正彰教授。東京大に西洋古典学の研究室をつくり、世界的な拠点に育て上げた業績は大きい。70歳を過ぎてなお、学問に情熱を燃やし続ける久保教授に、多くの師との出会い、学問の魅力についてうかがった。

「文字」と「人」のかたちを学ぶ学問

 私が15歳のときに戦争が終わりました。これからどうなっていくのか、焼け野原の中でだれにも見通しが立たないという状況でした。そうした中で、私が自分を見失うことなく、進むべき道を見定めることができたのは、自分の中によりどころとなるベースを培っていたからではないかと思います。
 小学1年生のころ、神戸市内にあった剣道の道場に通い始めました。小さいころから本ばかり読んでいた私を両親が心配して、体を鍛えさせようと考えたのです。この道場の指導が変わっていました。練習開始の1時間前に道場に入り、まず習字をする。うまく書けるようになるまで、一つの字を何週間もかけて練習するのです。1時間ほどで習字が終わると、今度は道場の端に座らされます。そして、ほかの子どもたちが木刀を構える姿をひたすら眺め、「型」を覚えるのです。
 道場で学んだことは、私のルーツになっていると思います。人文科学は「文字のかたち」「人のかたち」を学ぶ学問です。世の中に美しい「文字」や「人」のかたちがある、それには手本となる「型」があるということを、幼少期に心に刻みつけられたのは貴重な体験でした。


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