教える現場 育てる言葉
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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走ることで自分が成長していく醍醐味を体感する

  一流の選手は「完成されたもの」としてそこにいるのではない。時間をかけて積み上げてきたプロセスがある。
 「競技会でスタートラインに立つということは、登山でいえば頂上の一歩手前にいるのと同じです」と高野さん。92年のバルセロナ・オリンピックでの400メートル決勝で、日本人として60年ぶりにファイナリスト(決勝進出者)になった経験を踏まえて、こう続ける。当時、高野さんは31歳。
 「あの時はプレッシャーがすごかった。それだけ自分が高いところに立っているからで、少しでも失敗したら転落するかもしれないという恐怖です。一方で期待もありました。ここまで登ってきた自分への期待、あと一歩を踏み出して頂点にたどり着けば、別の世界が見えるに違いないというワクワクした気持ちですね」
 どんな競技会でもスタートする前とゴールした後では、自分の〝視界〟が変わっていることに気がつく。プレッシャーに耐えて走り切ることで「違う世界」を見つけることができるのである。このスリル感を体感するために、練習の厳しいプロセスがあったという。
 競技を通して自分が変わるということは、その人が成長していることを意味する。走りによって、それを実感する。これはランナーであることの醍醐味であり、高野さんが後進に伝えたいのもまさにこのことだ。この喜びは選手本人のものであると同時に、指導者自身のものでもある。2003年夏、世界陸上パリ大会の200メートル決勝で教え子の末續選手が3位でゴールを駆け抜けた時、「自分の目の前の仕事が変わってくると思いました」と高野さんは話す。それは「自分の生き方が変わる」ことへの予感だったかもしれない、というのだ。
写真
高野さんが指導する東海大学陸上部の練習風景

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