10代のための「学び」考

大村 智

大村 智

おおむら・さとし
1935年山梨県生まれ。山梨大学芸部自然科学科卒業、東京理科大大学院理学研究科修士課程修了。山梨大工学部発酵生産学科助手を経て、北里大薬学部教授、北里研究所理事・所長などを歴任。現在、学校法人北里研究所名誉理事長、北里大名誉教授、女子美術大理事長。90年日本学士院賞、92年紫綬褒章、2005年米国化学会アーネスト・ガンサー賞など国内外で受章多数。

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10代のための「学び」考

大村 智

北里研究所名誉理事長 日本学士院会員
好奇心のおもむくままに得た知識が
研究者としての土台を築いた

 天然有機化合物の研究において世界的な権威である大村智北里大名誉教授。独創的で多彩な手法を通じて、微生物が生産する化合物を約400種類も発見した。そのうち20種類が、現在も医薬や動物薬、農薬、研究用試薬として世界中で使われている。大村教授の研究の原点と独創性の源をうかがった。

土の中の微生物が7000万人を救う

 1グラムの土の中に、微生物がどのくらいいるか知っていますか。その数、なんと1億個以上。微生物は肉眼で確認するのも難しいくらい小さな生き物ですが、有用な化合物をつくり出すものもあります。例えば、現在使われている薬の約4分の1は、微生物の生産する化合物からつくられているのです。
 1979年に私共が発見した抗寄生虫薬エバーメクチンもその一つです。エバーメクチンを基にしてつくられた薬は主に畜産に貢献し、20年余りに渡って世界の動物薬の売り上げ1位を記録しています。この薬は人間の寄生虫にも効果があり、アフリカの風土病で重度の視力障害を引き起こすオンコセルカ症の特効薬として、1年間で7000万人以上の人々に投与され、失明から救っています。
 そうした素晴らしいパワーを持つ微生物と出合ったのは、化学を学んできた私が恩師の誘いで、山梨大の発酵生産学科で助手をしていたときです。微生物の一つである酵母で発酵の実験をしていたとき、酵母の働きによってブドウ糖があっという間にアルコールに変化する様子に心が揺さぶられました。「人間ができないことを可能にする微生物はすごい」。この出合いが、私の研究人生の出発点になりました。


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