教える現場 育てる言葉
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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芝居を通して人間関係を学ぶ

 鵜澤主事は、最近入所してくる若者たちの様子を見ていて、気にかかることがあるという。「核家族で育ったせいでしょうか、お年寄りや小さな子どもに触れずに育ってきている子が多く、全体的に、人と交わるのが苦手な子が多いようです。生身の人間に対する興味が薄い印象を受けます」。
 しかし、芝居は複数の人間がつくり上げていくもの。否が応でも人と関わらなければできない。
 「役者に必要なのは他人への関心ですね。舞台でも他人の演技に興味を持てなければ、いい演技はできません」(鵜澤主事)
 ある研究生は、「今でも喋ることは苦手なのですが、研究所に入ってから、『相手のセリフを聞いたふりをするな。本当に聞いて、自分の言葉として本当に伝えろ』としつこく指導されてきました。これを舞台でやるのはまだまだ難しいのですが、少なくとも、人の話を聞こうとする努力だけはできるようになったと思います」と語る。
 また、研究所に入るまで友達をほとんどつくれなかったというある研究生は、当初、複数の人間と密接に関わりながら一つの芝居をつくり上げていくことが、とても苦痛だったという。
 「私は不器用なので、人付き合いがなかなかうまくできないんです。でも、芝居の稽古を積んでいくうちに、あることに気付きました。それは、こちらが楽しく演じられたときは、相手役も『今日は楽しかったね』といってくれることです。相手役は自分を映す鏡なんですね」
 「当然ですが、他人がいてこそ芝居は成り立ちます。役者には独りよがりでない、他人を顧みることも求められるのです」(戌井所長)
 最後に、戌井所長は役者に必要不可欠な資質として、「創意」と「忍耐」の二つを挙げた。
 「何事もそうですが、実力というのは一朝一夕で付くものではありません。特に実力ある役者になるためには、日々の稽古がものをいいます。私自身を含め、研究所で研究生の指導に当たっている者は、常に芝居における新しい時代をつくっていけるような、スター性のある新人を世に送り出すことを目標に、やりがいを感じて取り組んでいます」
 プロの役者になれるのはほんの一握りかもしれないが、研究生は芝居を通して貴重な経験を積んでいる。ある研究生に、「いい役者の条件とは?」と尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
 「芝居のうまさも大切ですが、最後は、人間的な魅力であることが分かってきました」

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