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特集●学校評価を学校活性化にどうつなげるか

小松郁夫先生
●小松郁夫
国立教育政策研究所
高等教育研究部部長
こまつ・いくお●1947年秋田県生まれ。東京電機大学理工学部助教授を経て、国立教育研究所(当時)に移り、学校経営研究室長、教育経営研究部長を経て、現在に至る。東京都教育委員会をはじめ各地の教育委員会で、学校評価システムや学校経営に関するアドバイスを行っている。学校経営研究、学校評価の第一人者であり、諸外国、とくにイギリスの教育改革について詳しい。
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なぜ、今、学校評価が必要なのか?
2002年3月、小・中学校設置基準が定められ、「学校の自己点検・評価の実施」が努力規定として盛り込まれた。今、なぜ、学校評価が求められているのか? その背景や基本理念について、長年にわたって学校経営の研究を続けてこられた、小松郁夫先生に示唆をいただく。
納税者である保護者への説明責任
 学校評価が必要とされる第一の背景は、なんといっても「説明責任」(アカウンタビリティ)が学校に求められるようになってきたことです。
 ある研修会で、現場の先生から、「そもそも、私たちはだれに説明しなければならないのか」という質問を受けました。この質問に対する答えは、きわめてシンプルです。
 公務員である私たちの仕事には、1円に至るまで税金がつぎ込まれている。したがって、公務員自らが、納税者にきっちりと説明をする必要がある。世間ではごく常識的なことが、ようやく教育の世界でも認識され始めたのです。
問題を発見する手段として
 学校評価が求められるもう一つの背景に、継続的に学校改善を図る手法としての自己点検・評価に教育界内部が注目し始めたことがあります。 教育界に限らず、「よくわからないが、どこかに問題がありそうだ」という事態がいちばん深刻です。今、学校組織に求められるのは、問題を解決する能力もさることながら、問題を発見し、それを理解する力です。そのための手法として、学校評価が使えるということなのです。
資源の効果的投資のため
 ニューパブリックマネジメント(NPM)という言葉を聞いたことがありますか。これは、日本で進められている「構造改革」の背景にある新しい公共経営論です。例えば「どの学校にも1教室分のパソコンを整備する」といった、一律に資源を配分することが限界に達しているので、より現場が必要とするものを効果的に投資するという考え方です。つまり、同じお金をつぎ込むなら価値を生み出すところに投資し、その代わりに「結果」を求めることです。
 こうしたことは、学校選択制を導入したり、学校間の相違が承認されたりすることともリンクし、学校評価の重要性が高まっているのです。
学校マニフェストをつくろう
 学校の自己点検・評価に当たってまず必要なのは、評価の対象である組織のビジョンです。これまで画一的な学校行政が行われてきた日本では、独自のビジョンを打ち出す余地がありませんでした。しかし、学校の自由裁量権が拡大している今こそ、確固たる学校のビジョンを描くことが必要です。
 学校のビジョンづくりに関連して、私は、「学校マニフェストをつくろう」と提案しています。マニフェストとは、先の衆院選の焦点にもなりましたからご存知だと思いますが、「具体的で客観的なわかりやすい目標(公約)が、作業行程も含めて明示してあるもの」です。
 「教育目標ならすでにある」と思うかもしれません。確かにどの学校も持っています。私は、2年前に小学校を対象に学級崩壊の調査をしました。そのとき学校教育目標も尋ねましたが、その多くが、きわめて抽象的な内容でした。
 マニフェストに掲げるならば、「明るく元気な子」「生き生きした子」といった抽象的な目標ではなく、客観的な、評価ができる目標を立てることが重要です。
次のアクションが生まれる評価を
 評価活動で重要なのは、英語では「エビデンス(証拠)」というのですが、具体的な証拠に基づいて、だれもが納得できる評価をすることです。
 とくに教育の世界は、それぞれが固有の教育観をもって語るとまとまらないのです。
 学校の自己点検・評価は、現状分析のためにするものですが、組織改善に活かしてこそ、はじめて意味があります。つまり、それぞれの当事者の次のアクションプランが生まれてくるような評価でなくてはならないのです。
 そのためには、数値目標も必要です。もちろん、教育効果を簡単に数値化できるとは思いませんが、例えば、「授業内容・進度をどれだけ計画通りに進められたか」「遅刻率をどれだけ減らしたか」といった指標ならば、数値化が可能です。そして、「学校教育の質の向上につながったか」という視点での総括も可能です。
PDCAのサイクルを確立する
 すでに、東京都などさまざまな自治体で始められていることですが、学校評価は、「PDCAのサイクル」を確立することが重要になってきます。つまり、当面する教育課題を焦点化するための客観的データの収集と分析をしたうえで、学校のビジョンの実現に向けた具体的計画を立て(PLAN)、実行(DO)し、それが実現できたかの自己点検・評価(CHECK)をし、それに基づいて学校経営計画の改善を図る(ACTION)というサイクルをつくることです(図1)。
 そのためには、管理職のリーダーシップが重要です。リーダーシップといっても、何もトップダウンである必要はなく、学校組織には、権限配分型のリーダーシップがふさわしいと考えます。したがって、ミドルマネージャー、つまり主任クラスに思い切って権限委譲を行い、ボトムアップで自己点検・評価を進めていくことも可能ではないでしょうか。
 そして学校評価は、今後、自己点検・評価から外部評価の導入へと段階的に進めていくことが期待されています。
まずは学習到達度の評価を
 どんなことを評価すればよいのか? 考えられる7つの領域を示しました(表1)。
表1 学校評価7つの領域
 今、いちばん関心を持たれているのは、学習到達度だろうと思います。自治体単位でも学力調査が多く実施されるようになりました。そうした客観的な数値を活用した指導改善から始めるのがよいかもしれません。
 しかし、イギリスでの議論などに注目すると、今後重要になるのは、「学校文化・気風」の評価だと思います。
「文化・気風が評価対象になるのか?」と思うかもしれませんが、学校に絶えず改革をする雰囲気があるかどうかは、例えば、「去年の反省をもとに、今年の運動会をどのように改めたか」といったことでも評価できます。
 こうしたことが評価対象になるのは、教育も量から質の時代へと移行していることの反映です。よく、校長先生たちが、「教員の意識改革が大事だ」とおっしゃいますが、学校が問題を発見し、改善しようとする校風こそが、今後重要になってくるのだと思います。(談)
 
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