自校から名乗りを上げ、市内で最初に導入 |
森崎小学校は、2002年4月、横須賀市でただ一校、二学期制を導入した。きっかけは、通知表の見直しだった。
同校は、1999年の移行期間から現行の教育課程を先取りして導入していたが、最大の課題は、通知表が「目標に準拠した評価」をできるものではなかったことだった。保護者のアンケートでも、通知表改訂を望む声が高かった。
そこで同年9月に「通知表検討委員会」を組織。検討の過程で、南久直校長が、二学期制も視野に入れることを提案した。
「夏休み前に通知表を出してしまうと、仮に目標に到達できなくても、学びがそこで断ち切られてしまいます。しかも、すべてを家庭に期待することはできません。絶対評価の精神からいうと、どの子にも、“やればできる”と思える通知表を出したいと考えたのです」(南校長)
2年がかりで検討を重ねてきた通知表「おおぞら」は、学年ごとに色を変えたA4サイズ6ページ(図1)。 |
▲図1 改訂された通知表「おおぞら」。教員、保護者、児童の“3者でつくる通知表”をめざしたもので、子どもの自己評価欄や保護者の評価欄もある
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子どもの自己評価欄のほか、保護者に家庭でのようすを評価してもらう欄を設けるなど、「3者でつくる」通知表が誕生した。
二学期制にすると、なぜ“やればできる”と思える通知表になるのか?
「それは、学期が長いということの長所を生かせば、基礎・基本の定着に十分な時間をかけられるから。そのうえ、学期の途中に入る夏休み・冬休みを生かせます」(南校長) |
長期休業の前に「振り返り学習」 |
二学期制を導入した同校は、「ゆとりある学びのなかで基礎・基本を大切に」を教育課程の柱に据えた。そして、基礎・基本定着のために考えたのが、算数を中心にした「振り返り学習」だ。
まず、少人数指導による「みなおしタイム」を長期休業前の7月、12月に設定。各学年5~6コースのなかから、自分が弱いと思った課題を選んで学習する。用意されているのは、例えば、かけ算、わり算など、その学年で重要な単元・領域。教科書を中心とした授業形式ではなく、先生たちがアイデアを出し合った、オリジナルの教材で学ぶ。 |
▲写真1 「みなおしタイム」で算数の「重さ」の学習をしている3年生。みなおしタイム期間中は、臨時時間割が組まれ、管理職も含めた全教員で指導に当たる
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▲写真2 夏休み期間中行われる「学習相談日」。低学年と高学年の2部制になっている。コース別に異学年で学び合う
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みなおしタイムで学期の復習をし、弱点を補強したら、その結果を「たしかめカード」(図2)に記入する。 |
▲図2 5年生の「たしかめカード」。ミニ通知表ともいわれるもので、長期休業の前の7月と12月に作成。これをもとに保護者面談をする
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カードの項目は、国語と算数の基礎・基本に限定。先生の評価と子どもの自己評価を併記する。
これは「ミニ通知表」ともいわれるもので、長期休業前に通知表がないということを補う意味もある。このカードをもとに、個人面談・保護者面談を実施。一人あたり20分くらい、9日間かけて丁寧な面談をする。
さらに夏休み・冬休みに入ったら、たしかめカードで明らかになった弱点を「学習相談日」と称する講座のなかでフォロー。1~3年の低学年、4年以上の高学年の2部制で、算数、国語、パソコン、さらに11メートル以上泳げない3、4年生に皆泳(夏休みのみ)の4コースで1週間行われる。
算数、国語は内容別に各3コース、パソコンは段階別の3コースを開講。異学年が一緒に学習するのが特徴だ。
「学級内では勉強に消極的だった子どもが、下級生に頼られることで自信を取り戻したり、自然発生的に上級生が下級生にアドバイスをしたりと、予想した以上に、子どもたちの学び合いが見られました」(鈴木貴代美教頭)
自由参加でありながら、今年度は延べ1886人の参加が得られ、全児童数の3倍以上にのぼったことは、保護者や児童の絶大なる学校支持の表れだろう。 |
73段階のステップ教材を用意 |
みなおしタイム→たしかめカード→個人面談・保護者面談→学習相談日→みなおし→自己評価というのが、森崎小「振り返り学習」の一連の流れだ。このほかに、算数では計算領域に限定して、学年を超えた振り返り学習「できるかな?」の時間を6、9、11、2月に設定している(表1)。例えば、わり算の学習をしているとき、前学年で学んでいるはずのかけ算が不十分だとわかることがある。それを補う時間だ。
同校には、計算力を着実につけるため、1年から6年まで73ステップの教材が用意されている。子どもたちは、「けいさん大すきプリントA」でつまずきを発見し、「ステップ計算集」で練習。「けいさん大すきプリントB」で再診断しながら、ステップアップする。
「いきなりこうしたシステムができ上がったのではありません。少しずつやってきたことを子どもの視点から見直してみたら、こういう流れになったんです」(鈴木教頭) |
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中身が変わったら、衣も変えよ |
保護者はどんな反応を示しているのだろうか?
「02年度が終わった時点では、正直、保護者からの二学期制への手応えは感じられませんでした。唯一、休業前の保護者面談は好評でしたが…。130年続けた制度を変えたのですから、簡単に受け入れてもらえるとは思っていません。しかし、学習相談日の参加率を見ると、今年度末は、もう少しよい反応をもらえそうな気がします。これからも、『何のための二学期制なのか』ということは、保護者にくり返し伝えていくつもりです。
学校週五日制で授業時数は減ったのです。中身は変わったのに、これまでと同じ衣を着ているわけにはいきません。学校週五日制実施の前と後では、夏休みの意味合いもまったく違いますし」(南校長)
横須賀市内でも今年度は二学期制の実施小学校は5校になった。今後、全国的にも広がっていくと思われるが、各学校の位置づけを明確に打ち出すことこそが大切なのだろう。 |