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II 学力調査を学力向上に結び付けるポイント |
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調査結果を改善に生かせる時期に実施を
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学力調査を改善に結び付けるための、実施概要や結果活用などを観点別に紹介する。 |
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●悉皆/抽出調査 |
学力調査は、指定された学年のすべての子どもを対象とする「悉皆(しっかい)」、あるいは一部の学校や学級だけを対象にする「抽出」の、2通りの選択肢がある。田中先生は、調査を現場の学力向上に結び付けるためには、悉皆が望ましいと強調する。
「悉皆の意義は、統計的な精度の向上が目的と思われていますが、それは誤解です。例えば全国を対象とする調査なら、1割程度の学校を抽出するだけで、統計学的には国の平均像が明らかになります。では、悉皆の本当の意義は何か。それは、すべての子どもや教師、保護者に結果の情報を提供し、学力向上に向けた意識を促すことにあります」
結果が行き届き、各々が実態を正確に把握した状態が改善のスタートラインだと田中先生は語る。 |
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●実施時期 |
学力調査の実施時期はいつがよいか。田中先生は、「R-PDCAサイクル」を効果的に機能させるためには、2月が最適と説明する。
「この時期に実施すれば、学年末には結果が出そろい、次年度当初に新担任団で年間授業計画を立案する際の貴重な資料になります。新年度の冒頭から子どもの強みや弱みを踏まえた授業を展開できるわけです」(図1)
年度当初の計画に基づき、1、2学期の授業を進める一方で、11月末から12月初旬には「中間評価」として取り組みの成果を点検すれば、より効果が上がると田中先生は説明する。
「中間評価はR-PDCAサイクルの『C=チェック』に該当するもの。といっても大がかりなものではなく、小テストや単元テスト、宿題の提出状況といった日常的な評価をまとめ、学力や学びの姿勢を測るとよいでしょう。そこから導いた成果や反省点を踏まえ、3学期の授業を軌道修正します。これがチェックのあとの『A=アクション』に相当します」
学力調査を4月や5月に行う場合は、できるだけ早い時期に結果を出すことが肝要だ。「遅くとも、2学期の冒頭には結果に基づいた授業改善に着手すべき」と田中先生は話す。
特に最終学年の場合、実施時期によっては結果を授業に反映できない可能性もあるので注意が必要だ。 |
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▼図1
年間のR-PDCAサイクルの流れ |
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「RーPDCAサイクル」とは、R(Research・調査)→P(Plan・計画)→D(Do・実行)→C(Check・評価)→A(Action・改善)のプロセスを繰り返す考え方。学力調査を2月に実施することで、年間を通じて効果的にサイクルが機能する。次年度以降の2月にも学力調査を実施し、このサイクルを連続的に回していくのが理想だ |
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●意識調査 |
学力調査に加え、学力向上の取り組みの重要な指針になるのが「学びの基礎力」「生きる力」「家庭の教育力」などの力を把握する調査だ。田中先生は、これらを「学力の裾野(すその)」と呼び、教科学力との高い相関関係を指摘する。
「『学びの基礎力』の調査だけで、その子の学力の7割程度は予測できると考えています。そうした学力の裾野を広げる教育を心がけなければ、子どもの長期的な成長を保障できません。アンケート形式で集計し、実態を把握することは非常に重要と考えます」
更に、ペーパーテストの学力と、学力の裾野となる能力や環境とをクロス集計して分析すれば、一人ひとりの課題が明確になると田中先生は説明する(図2)。 |
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●調査結果の返却 |
学力調査の目的の一つは、結果に基づいて課題を明らかにし、子どもの学力を向上させることだ。それは教師の指導力を底上げすることにほかならない。それらを実現に近づけるためには、子どもや保護者、教師が、調査結果から課題を正しく読み取ることが必要だ。そこで、調査結果の返却方法が重要になる。
「レーダーチャート(図3)などで見やすくまとめる工夫が必要でしょう。学力だけではなく、問題解決能力や生活習慣、家庭での学習習慣といった多面的な要素が一目でわかるようにすれば、個々の課題が見つけやすくなり、教師は一人ひとりに応じた指導がしやすくなります。保護者面談などで説明を交えて手渡せば、『子どもを多面的に見てくれている』ということが伝わり、保護者との間に信頼感が醸成されるのではないでしょうか」 |
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▼図3
レーダーチャートの例 |
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●調査結果の公開 |
調査結果の公表は、地域の実情を踏まえた上での慎重な検討が不可欠だ。例えば、地域間格差の大きい自治体が詳細なデータを公表すれば、過度の競争を引き起こしたり、保護者の不安を煽(あお)ったりするおそれがあるからだ。
「結果の公表の仕方には、全体平均や学校平均、学年平均など、さまざまな範囲があります。慎重な議論の上で各自治体が可能だと判断すれば、学力向上に向けた意識の促進や情報提供、説明責任という点からも、公表の意義は大きいというのが私の個人的な考えです」
公表方法の希望が異なれば、学校ごとに対応を変える柔軟性も重要と田中先生は話す。 |
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●返却後のフォロー |
結果を返却したあとのフォローも重要だ。田中先生は、以下の三つの手法を提案する。
(1)教育委員会の指導主事による指導
指導主事が結果を分析し、地域別・学校別の説明会で、授業改善の方向性を示す。
(2)外部コンサルタントへの委託
結果の分析や授業改善のアドバイスといったアフターフォローが充実した外部コンサルタントに委託する。問題の作成から委託する場合は、分析を専門とするアドバイザーや研究員を擁する組織を選定する。
(3)担当教師の共同研究会
教育委員会の主導で、各校で学力向上を担当する教師を集めた共同研究会をつくり、現場の教師による改善努力をサポートする。
何よりも大切なのは、結果を渡して終わりにしないことだという。
「授業改善のアイデアを練るのは、個々の教師、学校だけでは限界があり、学校任せにすれば格差も生じます。教育委員会が効果的な活用方法をしっかりと伝えることが大切です」
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