このように、同じ東アジアに位置している国でも、異なる結果が生じている。そこで、今回の調査結果の背景や、各都市の幼児の生活、母親の子育て意識の実態を探るため、06年の9~10月にかけて、東京・ソウル・上海・台北に暮らす5・6歳児とその母親を一日取材した。
上海の母親に話を聞くと、子どもの将来について、「人とうまく交流でき、楽しく生きてくれればいい」と言いながらも、学歴に話が及ぶと、「少なくとも大学卒業まで、できれば大学院まで行ってほしい」という本音が出てきた。実際、子どもの習い事の内容を聞くと、大半の子どもが、小学校入学前に注音符号(日本の50音図に当たる)や漢字、計算を習っているという。また、中国は現在、経済の高度成長期の真っ只中にある。そうした背景を受け、保護者も子どもの将来について「勉強→高学歴→よい就職→出世」というストーリーを明確に描いているようだった。
一方、東京で幼児の習い事を取材してみると、テニス、サッカーなどのスポーツや、ピアノなどの音楽が中心であることがわかった。学歴や職業は子ども本人が決めることで、それよりも、思いやりのある人に育ってほしいという話が印象的だった。
この上海と東京のほぼ中間にあたるのが、台北だ。子どもに高い学歴を期待しつつ、思いやりの心を持つことも大切と考えているようだ。ただ、台湾では簡略化していない繁体字の漢字を使用していることもあり、文字等の学習に関しては、幼稚園から宿題として課すことが多いという。
ソウルの母親の学習のスタート時期に関する意識は、調査結果だけを見ると、それほど高い数値ではない。しかし、現地で母親に話を聞くと、ほとんどの子どもが学習誌などでハングルや計算を習っている。また習い事については、幼稚園や保育園で行うより、ほかの施設に通わせるのが一般的なようだ。
今回の調査や取材から見えてきた結果を、保護者の教育観の把握や、保護者への情報発信などに役立ててもらえれば幸いに思う。
邵勤風(ベネッセ教育研究開発センター研究員)
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