「教えて考えさせる授業」は、子どもが「考える」ために必要な手がかりを「教える」授業といえる。では、何を教え、考えさせるのか。
1年生の国語「クマさんになって、音読を楽しもう」の授業では、「登場人物への同化によって言葉を生み出していく」ことが狙いだ。授業では、「クマさんの気持ちを言い表してください」と、いきなり答えを求めない。「お面を付けてクマさんになりきってみましょう」「さし絵をよく見てみましょう(さし絵の拡大図を黒板に掲示)」「吹き出しにして書いてみるのもいいですね」などと伝え、まずじっくり考えさせる。その上で答えを求めると、文章を読んだだけよりも、想像力や表現力の際立った言葉を引き出せる。クマの気持ちを「考える」ために、その手がかりとなる方法を「教える」わけだ。
4年生の算数「1の位が0となる2桁同士のわり算」でも、考えることに重点を置く。問題を提示した教師は、「前の授業とはどう違う?」「いろいろな考え方があるよ」などと問いかける。解法は教えず、既習内容の応用などから思い付かせようという考えだ。ついに子どもから「10を基にして考えればいい」という発言があると、「そうだね。前の授業でもやったね」と、80枚の色紙を10のまとまりに分けた図を板書。その後は、「10のまとまり」という概念を強調し、理解させていく。問題を繰り返し解かせるのではなく、概念の理解を重視することに「教えて考えさせる授業」の特徴がある。
こうした授業によって、どのような能力の育成を狙っているのか。松本安博校長はこう語る。
「従来の授業では、基礎・基本といえば『知識・理解・技能』と捉えがちでした。しかし、『総合学習』の研究を進めるにつれて、探究型学習を深めるには、そのほかに思考力や判断力、表現力、問題解決力、問題設定力などが欠かせないことに気づきました。そこで『教えて考えさせる授業』では、それらの能力も基礎・基本と位置づけ、教科学習の中でも育成を目指しています」(図1)
当初は、授業で何を教え、何を考えさせるべきか、試行錯誤の時期もあった。その際に前提としたのが、「わからない」「面白くない」という子どもを出さないようにする授業だ。教師たちは、その上で「子どものどういう能力を育てたいか」に立ち戻って考えた。その結果、教えるべきことは教え、どの子どもにも考えさせることによって、子ども自らに、解決に必要な知識・技能と共に解決過程における考え方や態度、方策を気づかせたい、という考えに至った。
例えば、授業で「この知識や考え方を何かに使えないかな」「前に似たような勉強をしたよね」「およその見当がついたかな」と、教師は頻繁に問いかける。すると、子どもは板書や教師の仕草を見たり、前の授業のノートをめくったりして解き方を探し始める。それを続けるうちに、「前の時間はこうだった」「習った公式を何とか応用できないかな」と考える習慣が身についてきたという。既習内容を新たな問題に応用することは、学習への内発的動機付けにも高い効果があると、永池先生は指摘する。
「学んだことが次に生かせるという喜び。それは現在の学習に意味を与え、学習意欲を大いに引き出します」
|