世代や分野を超えた対話で
全国の中高生が新たな気づきを得る場に

2022年3月19・26日、「ベネッセSTEAMフェスタ2022」がオンラインで開催されました。今回で11回目となる本フェスタは、全国の中高生が自身の探究・研究を持ち寄り、生徒同士、研究者・教育関係者などの社会人と、フラットな関係で対話し、学びを深めることを目的としています。今回も、世代や分野を超えた学び合いを通して、探究の発展につながる気づきを得る姿が見られました。

現代社会が直面する多様な課題やトピックに迫る

「ベネッセSTEAMフェスタ」は、全国の中高生が探究・研究活動を持ち寄り、各分野の社会人サポーターを含めた参加者が、フラットな関係で交流、対話し、学びを深める場として、2011年にスタートしました。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、2020年からはオンラインで開催。11回目となる今回は、過去最多の31校126チーム約280人の中高生がエントリーしました。

1日目は、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って24のルームに分かれ、全チームが2回ずつ発表しました。参加者は気になるチームの発表を視聴して回り、オンラインのアンケートフォームで、発表に対するフィードバックを送信。そこで集まった意見や、社会人サポーターの意見などから総合的に評価し、2日目に発表する代表11チームを選出しました。

2日目は、11チームが発表しました。各チームの発表後には、社会人サポーターが「推しコメント」で、注目してほしい研究のポイントを紹介しました。それらの模様は、動画配信サービスで一般公開されました。

各チームのテーマは、環境や医療、貧困、地域活性化、育児、食の安全など、現代社会が直面する多様な課題やトピックに基づいていて、中高生ならではの切り口や発想を生かしてアプローチするユニークな発表が数多くありました。そして、2日間を通して、参加者全員がチャット機能を用いて、各チームの素晴らしい点や気づき、励ましなどを積極的に書き込んでいました。

2日目に発表した代表11チームの中から、4チームを紹介します。

聖学院みつばちプロジェクト(合同会社And18's)

メイカー部門
東京都 聖学院中学校高等学校

聖学院中学校高等学校の「聖学院みつばちプロジェクト(合同会社And18’s)」は、校内で行っている養蜂で採取したハチミツを使い、ジンジャーエールを製造・販売し、その利益の一部をタイの山岳少数民族の子どもたちが暮らす施設に寄付する活動について発表しました。

寄付に至るまでには、事業計画の作成や助成金の申請、ジンジャーエールの製造会社の選定、レシピ開発、試作品づくり、資金集めに行ったクラウドファンディングなど、様々な壁がありました。そのたびに試行錯誤を重ね、時には周囲に助けを求めながら活動を進めていく様子を説明(スライド1)。「事業計画まで立てるとは本格的だ」「助成金を獲得しているのがすごい!」など、チャットには多くのコメントが書き込まれました。商品のジンジャーエールは既に完成。販路も開拓済みで、東京都北区にある渋沢栄一関連の「渋沢×北区飛鳥山おみやげ館」他3か所で販売されています。

社会人サポーターの楽しい学校コンサルタントSecondの前田健志代表は、「1人では進められない現実をしっかりと受け止め、分からないからこそ学び続ける姿は、まさに探究学習の本質だと感じました。与えられた環境の中で動くのではなく、事業計画を提案し、助成金を勝ち取るなど、自分たちで環境をつくり出していることも素晴らしいと思います。皆さんの学びのバトンを後輩につなげて、これからもプロジェクトをぜひ継続していってください」と述べました。

スライド1 試作を15回以上重ね、約5か月間をかけて、「青天渋沢はちみつジンジャーエール」を完成させました。

貧困に苦しむケニアの母親に、100均グッズでサステナブルな支援

ソーシャルイノベーション部門
東京都 岩倉高等学校「あゆみ」

岩倉高校の「あゆみ」は、ケニアのスラムで暮らす、脳性麻痺の子どもを抱えた母親を支援する活動について発表しました。教員の紹介によって始まったNPO法人チャイルドドクター・ジャパンとの交流を通じて、貧困層の増加など、多くの問題を抱えるケニアの現状を知り、「自分たちに何かできないか」と考えたことが支援活動のきっかけです。

同チームは、日本の100円ショップのグッズを母親に送り、自身で使ったり、販売して利益を得たりしてもらう計画を作成。ケニアとオンラインでつないで母親たちに意見を聞き、スラムの狭い住宅でも収納しやすい折り畳み式の椅子や、共同シャワー室にスマホを持ち運べる防水ケースなど、現地での生活を考慮した選んだ11の商品を送りました(スライド2)。そして、支援継続に向けて、100円ショップの企業にプロジェクトを提案予定です。同様の支援をほかの国にも広げ、日本の商品によって世界の人々のよりよい暮らしを実現することを目指しています。

東京工業大学環境・社会理工学院の辻本将晴教授は、「寄付などの支援とは違って、コストやマージンを検討する余地はあるものの、ビジネスとして成立する可能性があり、その点でとてもサステナブルな活動と言えます。近年、ケニアでは急速な経済成長が続いています。将来を見据えてイコールパートナー(対等な立場で行う協力)として事業を成立させる視点を持つことも必要だと思いました」と、アドバイスしました。

スライド2 ケニアの人々が直面する問題を調査分析し、現地の方々とオンラインで意見交換を行い、商品の内容などを検討しました。

安心・安全な場づくりで、いじめのない社会を目指す

ソーシャルイノベーション部門
東京都 上野学園中学校・高校「平和を目指す」

上野学園中学校・高校の「平和を目指す」は、思春期におけるいじめをなくそうと活動しています。「いじめは、いつでもどこでも起こりうるが、『いじめをしない人・環境』がある」という仮説を立て、誰もが本音を語ることができる安心・安全な環境づくりを目指していると述べました。

同チームでは、北米を中心に行われている生徒のみの集会「アセンブリ」に着目。それを日本的にアレンジし、「クラス、学年、学校の垣根を越えた、越境コミュニケーションの場」「メタ認知、相互理解を深めるための安心・安全が保障された場」を考えました。そして、①相反する意見を持つ生徒でグループを構成する、②活動への熱量の異なるメンバーが集まり、気軽に話しやすいテーマを設定する、③すべての意見に否定的な不穏分子役の生徒を入れるといった3つの条件下で、校内で生徒のみのアセンブリを実施しました(スライド3)。

チームのメンバーは、ファシリテーターとして参加。いずれの回も対話を大切にすることで、相手の意見を受け入れられたという感想が多く寄せられました。今後は、参加人数を増やしたり、初対面の他者と対話したりと、他の条件においても安心・安全を担保できるかを実証したいと意欲を語りました。

教育ジャーナリストの後藤健夫氏は、「学校文化は、先生ではなく生徒がつくるものです。後輩にテーマを継承して活動を続けることで、校内に取り組みが定着し、学校文化になっていくでしょう。それにつれて対話の質も上がり、何よりこれまで以上にいじめは起こりづらくなるのではないでしょうか」と講評しました。

スライド3 いじめをしない人や、しない環境への仮説を立て、「アセンブリ」の実施によって検証しました。

高分子量ヒアルロン酸でがん細胞の増殖抑制に挑む

アカデミック部門
東京都 広尾学園中学校・高等学校「ハダカデバネズミチーム」

広尾学園中学校・高等学校の「ハダカデバネズミチーム」は、ハダカデバネズミが合成する高分子量ヒアルロン酸を用いて、がん細胞の増殖を抑制する研究について発表しました。ハダカデバネズミは、がん耐性を持ち、腫瘍が形成されにくいことが知られています。それは、ハダカデバネズミが合成する高分子量ヒアルロン酸が関与し、細胞同士が接触する前の早い段階で細胞分裂を停止させるからだと考えられています(スライド4)。

同チームは、高分子量ヒアルロン酸をヒト・マウスの乳がん細胞に導入すると増殖抑制が確認された先行研究を踏まえて、他のがん細胞でも同様の効果が得られるかを解明しようとしています。今後、LLC(マウス肺がん細胞)、及びC26(マウス結腸がん細胞)に対する影響を明らかにするため、高分子量ヒアルロン酸の作製や培養などに取り組む過程について説明しました。

東京都立大学理学部研究科の福田公子准教授は、「科学者として本気でコメントしたい」と前置きした上で、「先行研究を踏まえて研究の新規性を明らかにしていたり、実験の原理や一つひとつの作業の意味を理解して取り組んだりしています」と高く評価しました。一方で、「海外の最新論文を読み、背景情報を厳密に記載したり、研究タイトルをより伝わりやすくしたりすることも大切です。自分の持つデータのどの点が新しく、何に使えるかを考え抜くと、また違った発表になると思います。今後の研究の進展が楽しみです」と、助言と激励を送りました。

スライド4 ハダカデバネズミが合成する高分子量ヒアルロン酸の影響を突き止め、最新の医療への貢献を目指す。

年齢や立場に関係なく、私たちは誰もが挑戦者

閉会式では、東京工業大学の赤堀侃司名誉教授が、フェスタの講評を述べました。

「2日間で発表されたすべての探究や研究に、従来の方法では解決が難しい要素が含まれていました。それを解決しようと、皆さんが新しい方法論にチャレンジする姿を目の当たりにして、私自身も力をいただきました。昨今、世界は様々な難しい課題に直面しています。日本の中高生の皆さんがこれほどの力を持つのを見て、きっと乗り越えられるという気持ちになりました。社会人サポーターの皆さんが正面から生徒たちに向き合い、物事の本質を本気で語っていただいたことにも深く感謝を申し上げます」

本フェスタを主催したベネッセ教育総合研究所の小村俊平主席研究員は、次のように締めくくりました。

「これからの若い世代は、柔軟な発想だけではなく、新しい技術や手法を駆使して活躍していく時代が訪れることを、皆さんの素晴らしいプレゼンテーションを通して改めて感じました。一方で、参加者の皆さんは、社会人サポーターのコメントから、専門家が時間をかけて蓄積した経験や知識のすごさを感じたのではないでしょうか。そのように、世代や分野を超えた交流から新しいものが生まれることを実感してもらえたら幸いです。私たちは、年齢や立場に関係なく、誰もが挑戦者であるのです。それでは、来年のフェスタでお会いすることを楽しみにしています」

開催概要

【日時】2022年3月19・26日
【主催】株式会社ベネッセコーポレーション
【参加チーム数】中学校・高校31校126チーム(約280人)
【エントリー部門】
・アカデミック部門(32チーム) 学術的な探究心を基に進めた活動の成果を発表する部門
・ソーシャルイノベーション部門(76チーム) 身近な気づきや問題意識から行動し、自分や周囲にもたらした変化を発表する部門
・メイカー部門(18チーム) 「創りたい!」という想いを形にし、表現する部門

【社会人サポーター】社会人や大学・企業の専門家11人(専門的なフィードバックをする役割として参加)

赤堀侃司 一般社団法人ICT CONNECT21会長、東京工業大学名誉教授
河村聡一郎 ITエンジニア
後藤健夫 教育ジャーナリスト、アクティビスト
辻本将晴 東京工業大学環境・社会理工学院教授
登本洋子 東京学芸大学大学院教育学研究科准教授
堀川晃菜 科学コミュニケーター・ライター
福田公子 東京都立大学 理学部生命科学科准教授
前田健志 合同会社楽しい学校コンサルタントSecond代表
※一部ご紹介、五十音順。プロフィールは、2022年3月時点のものです。

ベネッセSTEAMフェスタ事務局

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