“強制”でも“放任”でもない“見守り”から、
児童と教員で学びを創造する学校へ

2021年9月30日、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」(事務局:ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「『2030年の小学校』を考える」をテーマにトークライブがオンラインで開催された。ICTを活用しながら、自律した学習者の育成や個別最適な学びの実現をいかに目指していくか、多様な意見が交わされた。

■登壇者
東京都・調布市立多摩川小学校 指導教諭  庄子 寛之
東京都・練馬区立石神井台小学校 主任教諭 二川 佳祐

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 小村 俊平

左上/庄子先生 右上/二川先生
下/小村

コロナ禍でICT活用が進展、教育の新たな可能性が拓けた

ベネッセ教育総合研究所では、中学校・高校の有志の教員によるオンライン対話「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」を毎週実施し、その中で議論が白熱したテーマを選び、プロジェクトメンバーが語り合うトークライブを、毎月開催している。2021年9月30日に行われた回では、「『2030年の小学校』を考える」をテーマに、小学校教員2人を交えて対話を深めた。

最初に、コロナ禍における授業を振り返る中で、これからの学びを考える上で欠かせないICTの活用について前向きな考えが示された。

練馬区立石神井台小学校の二川佳祐先生は、「学校全体でオンライン授業を推進した結果、どの教員もICTを活用した授業づくりが格段に上手になりました」と校内の様子を語った。

調布市立多摩川小学校の庄子寛之先生は、「コロナ禍での経験を基に、台風などで登校できない際にオンライン授業を行っていきたいと考えています」と、展望を示した。

オンライン授業での心がけや工夫についても提案があった。二川先生は、コロナ禍において学校の意義を考え続け、人とのつながりの大切さを再認識したという。「子どもは、友だちや教員とのつながりを通じて心が満たされて、初めて学びに向かえます。オンライン授業でもつながりの確保を最優先しようと、先生方と話しました」と語った。

庄子先生は、「オンライン授業」ではなく、意識的に「オンライン学習」と呼称して学びの充実を図った。「学びは、楽しいからこそ続くものです。オンラインの授業では、教員からの一方通行とならないよう、教員の説明はできる限り短くし、児童自身が考えたり、自分で選んだ問題に取り組んだりする時間を多く設けるようにしました」と述べた。

ベネッセ教育総合研究所の小村俊平主席研究員は、「OECD Education2030プロジェクト」での経験を踏まえ、「海外と比較して、日本は教育のICT化が遅れていると指摘されますが、日本でも必要な取り組みは着実に進んでいます。二川先生が話されたようなオンラインの学びでも、教員と生徒、生徒同士のつながりが大切だという指摘は、海外の国々が日本から学べる点です」と説明した。

かかわり過ぎない、“見守る姿勢”を大切にしたい

教員が児童の成長を過度に期待することが、学びを制限しているのではないかといった考えも示された。

庄子先生は、「植物に例えると、『もっとよく育ってほしい』と水や栄養を与え過ぎると、かえって成長に問題を起こすことがあります。成長できる環境をしっかり整え、『今、成長しなくても、後から伸びればよい』という気持ちで見守ることも大切ではないでしょうか」と述べた。

二川先生はその考えに賛同し、「クラスの子どもたちと1年間、一緒に過ごせるのは幸せであり、絶対的な愛情を根底に持っていたいです。そして、庄子先生の例えを借りるなら、種を包み込むふかふかの土壌を整えたら、特に根が育つ子もいれば、特に茎が育つ子もいるといったおおらかな考えで十分ではないかと思います」と語った。

2030年に向けた課題の1つとして、小村主席研究員は、ICT活用に精力的に取り組む教員と、そうでない教員との二分化の状況をどう改善できるかを問いかけた。

二川先生は、「校内にそうした状況があったとしても、まず、できる人から取り組み、組織として前進することが大切だと考えます。そして、その取り組みをサポートや対話を通じて広げていくことが大事でしょう。私は、周りの先生方と一緒に学ぶような気持ちで、自分の実践したことを伝え、意見をうかがうようにしています」と述べた。

庄子先生も、校内での対話の大切さに賛同し、「取り組んでいないのは、単にICTの活用方法が分からないだけかもしれません。自分とは考えが違うと距離を置くのではなく、同じ学校の教員としてかかわっていくことが大事だと思います」と語った。

今回のトークライブでは、教育のICT化を起点に、いかに自律した学習者の育成や個別最適な学びを実現するかについて多様な意見が交わされた。小村主席研究員は、「2030年に向けて、テクノロジーを取り入れて様々な障壁を取り払いながら、子どもと教員が協働して学びを創造する場を目指していきましょう」と語り、トークライブを締めくくった。

■視聴者からの意見・感想

◎子どもが必要に応じて、タブレット端末を使うか、教科書を使うかを選択できる環境にしたいと思いました。

◎教員が選択肢を用意し、その中から子どもが選ぶことを「主体性」と捉えているのだとしたら、その転換が必要だと感じました。

◎生まれた年が同じだから、同じ教室で同じ授業を受けることに無理があるのではないかと思うようになりました。一人ひとりの育ちを踏まえつつ、子ども同士のつながりを生かして学べる環境を作りたいと思います。

◎いつの時代も子どもの成長を願って教育が行われてきました。だからこそ、今、最高の学びとするためにどうすればよいか、本気で考えたいです。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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