東京大空襲体験者の伝承者として講話する佐藤稀子さん=1月26日、東京都国立市
自身の東京大空襲の体験を語った伝承者の講話にコメントする二瓶治代さん=1月26日、東京都国立市
東京大空襲伝承者の有馬佑介さん=2月20日、東京都国立市
一晩で約10万人の命を奪ったとされる東京大空襲から10日で80年。生存者の高齢化により当時の記憶の風化が課題となる中、東京都国立市で体験を語り継ぐ「伝承者事業」が10年前から続けられている。「戦争は人ごとじゃない」。伝承者となった人たちは、平和への思いも胸に学校などで講話を重ねる。
横浜市の会社員佐藤稀子さん(34)は、訪れた広島市の原爆ドーム近くで若者が無関心だった様子に危機感を覚え、国立市の事業に応募。8歳の時に空襲を受けた同市の二瓶治代さん(88)から体験を聞き、「考える一つのきっかけになってほしい」との思いで小学校などで講話を続ける。
講話では、空襲前日に二瓶さんが「またあした遊ぼうね」と別れたまま亡くなった幼なじみがいることを伝え、「きょうの帰り道に『じゃあね』と言った友達に会えなくなるのを想像できますか」と子どもたちに投げ掛ける。身近なこととして感じられるよう、事前に講話先の被害を調べるなど工夫も重ねた。
桐朋学園小学校(国立市)教諭の有馬佑介さん(44)は「体験していない人間が熱を込め、平和を求め語ることに意味がある」と二瓶さんの体験を継いだ。「戦争がある世の中が続いていることに、大人として申し訳ない」と感じ、講話を子どもと平和を考える機会にもしている。
「想像力を磨くことが平和につながる」。有馬さんが重視するのは、熱や音など当時の体験者の感覚だ。聞き手の反応に合わせ間の取り方を工夫し、無関心だった児童が聞き入るようになる姿に手応えを感じている。
「もうわずかしか自身で語れる時間はない」と体験を引き継いでいる二瓶さん。「十人十色に思いを乗せて語ってくれる。映像にはない息遣いが感じられ、本当にありがたい」と期待を寄せた。
国立市の事業は、語り部をしていた市内在住の広島と長崎の被爆者2人の活動を引き継ぐため、2015年に始まった。二瓶さんを加えた3人の体験は、公募で集まった15人が継承し、全国の小学校などで伝えられている。自治体の伝承者事業は、広島、長崎両市に次ぎ3例目で、東京大空襲では唯一だ。
事業のアドバイザーで一橋大の根本雅也専任講師は「伝承者による体験の語り直しは、『いま』の時点で語れることが強みだ」と意義を強調した。