教師数の確保が急務。背景に高い離職率も

前回は、新年度にあたり、教師が昨年度までとは異なる子どもや同僚との関係を構築し、新学習指導要領の趣旨に沿った授業づくりを行っていくためには、教師同士のコミュニケーションの活性化や校内研修の充実が大切であることをお伝えしました。

それらの多くは、各学校単位での実践が可能です。しかし、課題の本質に目を向け、根本的な改善を目指すには、個々の学校の工夫や努力だけでは限界もあります。残業を前提とした現状の働き方を根本から変えて、勤務時間内で子どもと向き合い、同僚と協働して授業準備までできるようにするのが、目指す姿だからです。国際比較した研究などを読むと、フィンランドなどではそうした教師集団の学びを大切にしているようです。日本では、とりわけ小学校では授業の空き時間がなく、勤務時間中に授業準備はおろか、トイレ休憩すら、なかなか取れないような実態があります。各学校現場での業務改善、働き方改革ももちろん重要ですが、国の政策としては、やはり教師数を増やすことにもっと向き合うべきだと、私は考えます。

ただ、最近は、小・中学校を中心に教師の採用倍率が低下しているだけでなく、新規採用者や若手教師が離職するケースも少なくないようです。「学校の先生は多忙である」ことは知れ渡っていますし、必要最小限の教師数の確保だけでも厳しい状況が続いています。講師不足も深刻で、年度途中に代替教師が見つからないという話はあちこちで聞きます。こうなると、少ない人数でしのぐ現場はさらに大変になり、そうした職場では教職員間のケアや支援も薄くなりがちなので、病休や離職が増えます。悪循環です。学校が働き続けやすい職場になり、教職員自身がウェルビーイング(Well-being)な状態になっていくことが最重要です。

これからの学校を考える転換期

持続可能な教師の働き方の実現を目指すにあたって必要な視点は、働き方改革だけではありません。先進国を中心に、新しい教育モデルを模索する動きが世界中で広がっていますが、日本においても、これまでの学校の「あたり前」にこだわらず、これからの学校をつくる転換期を迎えています。子どもの資質・能力、教師の役割、ICTの存在・性格において、パラダイムシフトを起こす必要があります。(図)

【図:「これまでの学校のあたり前、慣習」から「これからの学校(パラダイムシフト)」】

これからの教育を論じようとする際、日本では何かにつけて、これまでの教育の問題点ばかりを挙げる傾向があります。しかし、国際的な学力調査の結果を見ると、日本は先進国でも上位の科目が多いですし、世界と比較すれば、子どもの問題行動も多い方という訳ではありません。ですから、変えるべきこと・変えるべきでないことの具体は多様な意見があってよいと思います。重要なのは、これまでの教育(図の左側の部分)に関する振り返りを行うことです。それは、前回お話しした、これからの授業づくりにおけるアンラーニング(unlearning)の考え方にも通底しています。

自治体規模での働き方改革推進を

そのような大きな流れを踏まえた上で、持続可能な教師の働き方を実現するための具体的な工夫例を挙げてみましょう。

1つは、多忙化している原因が見つかった場合に、それを確実に改善につなげていく仕組みを構築することはできないでしょうか。多種多様な業務を、教師は時に不満を感じながらも頑張ってこなし、振り返る余裕もなく次の教育活動に取り組みます。そうした教師の力量と頑張りが現在の学校教育を支えている一方で、業務の中で感じた課題を洗い出したり、改善のアイデアを形にしたりしなくても、その場を乗り切ることができてしまったがゆえに、業務改善につなげていこうとしないのです。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざに似ています。すると、また1年後に同じように多忙な状況が生まれ、続いていくことになります。そうした「多忙ループ」をどこかで断ち切る仕組みが必要です。

教師が感じた改善点を確実に拾い、集約して教育委員会に伝えるシステムを構築すれば、その年度は無理でも、次年度、次々年度に改善することができるでしょう。そうした仕組みは教師個人や学校単位で構築することは難しく、教育委員会などがリードしていく必要があります。

重複する業務の統合も、もっと進められると思います。埼玉県鴻巣市では、2021年度に教育ICT基盤をすべてクラウド化し、学術情報ネットワーク「SINET」を活用して、校務系、校務外部系、学習系のネットワークをつなぎました。それにより、職員室や教室、授業で使うパソコンを、校務系、校務外部系、学習系と切り分ける必要がなくなり、1つの目的に対して複数回行っていた登録業務が1回で済むようになりました。事務作業だけが多忙の主要因ではありませんが、そうした取り組みがより大規模に、汎用的な形で進められるべきだと思います。

働き方改革の目的は時短ではなく、魅力ある職場づくりにあり

一方、現在の働き方改革で気になる傾向があります。残業時間を月間45時間以内とすることが目的化していることです。業務の効率化は必要ですが、本来の目的である「教師が生き生きと働ける職場づくり」を考えた時に、時間短縮だけに目が行き、視野が狭くなってはいないでしょうか。自分の担当業務から少しだけはみ出して協力し合うことや、普段のコミュニケーションの機会までカットしてしまうと、ソーシャル・キャピタル(social capital)(*)が減少し、働き方改革自体にもマイナスの影響を及ぼします。何を残し、何を効率化するかの、メリハリをつけることが大切です。

魅力的な職場であるためには、働き続けやすいことのほかに、その人のやりがいや成長の機会があること、成長実感を得られることなども大切です。そうした複合的な環境改善を続けることで、教職が魅力ある職業として社会に認知されるようになり、志望者も増加するという好循環が生まれるのではないでしょうか。今後も、そうした学校のあり方、働き方を先生方とともに考えていきたいと思います。

*「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴。または、そうした社会組織を重視する概念。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク 代表

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