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  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版2021 臨時増刊号

ICTを活用してクラス全体で意見を共有。他者に伝える力を育む
〜大阪府枚方(ひらかた)市立第四中学校

2022/01/28 09:00

枚方市立第四中学校は、市のICT教育のモデル校として、2019年度から1人1台の端末が配備され、実践研究を重ねています(詳細は本誌P.15-18)。
本記事では、1年生・社会科(歴史)の「協働的な学び」において、ICTを効果的に活用した実践事例を、ダイジェスト動画付きの記事でご紹介します。

▼本誌記事はこちら↓をご覧ください。

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▼授業のダイジェスト動画(約8分)は、こちら↓をご覧ください。

個別学習と協働学習で、日本の古代史のキーパーソンを考える

全校生徒数815人、28学級の枚方市立第四中学校では、全教科の代表者と特別支援学級の担任が参加してICTの活用事例を共有する「タブレット活用委員会」や、全教員が教科を超えてICTを活用した授業を見合う「授業参観交流プロジェクト」などを実施。組織的にICTの活用を浸透させてきた。その結果、学習用オールインワンソフトを使った「個別最適な学び」及び「協働的な学び」の実現などが図られている。
本記事では、ICT活用主担当として校内研修を主導する佐納(さのう)達平(たっぺい)先生が行った、1年生の社会科(歴史)における、ICTの効果的な活用実践事例を紹介する。

授業概要

学年:中学1年生
教科、単元:社会科(歴史:古代史のまとめ)
担当:佐納達平先生
使用ICT機器:タブレット端末、プロジェクター
使用ソフト:ミライシード(オクリンク)、Googleフォーム

授業展開

1.本時の課題と流れを提示(5分)

本時では、古代史の単元のまとめとして、飛鳥時代から平安時代半ばまでの歴史上の人物の中から、「最も重要なキーパーソン」を話し合うことにした。生徒は、各自が選んだキーパーソンを理由とともにグループ内で発表し合い、クラス全体で「最も重要なキーパーソン」を選ぶという流れだ。
佐納先生は、本時の目的と活動の進め方を説明した後、蘇我馬子や藤原道長など、22人の重要人物名が書かれた肖像画の画像データを、指導者用端末から学習者用端末に一斉送信。生徒は、既習事項を振り返りながら、1分間で自分が重要だと思うキーパーソンを1人選んだ。

【佐納先生】
「授業では、資料の使い方や調べ方、他者への説明の仕方を重視しています。本時は単元のまとめなので、特に他者に分かりやすく伝える表現力を目標としました。
また、ICTの活用面では、これまで切り貼りしたものをコピーしてから配っていた20枚以上の画像が、クラス全員に一斉に送信できるのは大きなメリットだと感じています。ICTによって、授業の準備も進行も、非常に効率的になりました」

2.各自が授業支援ソフトで「人物カード」を作成(15分)

生徒は、自分がキーパーソンに選んだ人物の「事績」と「選んだ理由」を授業支援ソフト「オクリンク」の「カード」(文字や絵などを書き込めるドキュメント)に入力。端末を使って、教科書や資料集をカメラ撮影して取り込んだり、自身のノートを見ながらテキストを入力したりしてカードを完成させ、指導者用端末に送信した。
入力にあたって佐納先生は、いつものように「カード作成(発表)における評価規準」を3段階のルーブリックで確認。生徒はそれを意識しながら表現を様々に工夫したが、制限時間の12分間を過ぎても全員のカードが完成しなかった。そこで時間を延長し、クラス全員が送信を終えた。

【佐納先生】
「他者に分かりやすく伝える表現力を目標にした評価規準を示すようになってから「発表資料の内容をもっとよくしたい」と、調べ学習や資料作成に熱心に取り組む姿が見られるようになりました。今回も、カードの作成時間を2分間延長しましたが、これも生徒の意欲の表れだと捉えています。
ただ、歴史分野のウェブサイトには、個人が自説を述べたようなものが数多くあります。そこで、1年生の段階では、まず教科書や資料集で正確な事実を学べるよう、インターネットでの調べ学習を差し控えています。一方、地理や公民の授業では、省庁や自治体などのウェブサイトも、調べ学習に利用しています」

3.全員がグループ内で発表(10分)

生徒は3~4人のグループになり、端末でカードを見せながら、自分が選んだキーパーソンの「事績」と「選んだ理由」を1人30秒間で発表した。聞く側の生徒は、配布されたプリントに、発表の要点を素早くメモ書きしていった。
メンバー全員の発表が終わったところで、佐納先生はクラス全員分のカードを一覧にしてプロジェクターで投影。すると、半数近くの生徒が「聖徳太子」を選んでいることが判明し、歓声が上がった。

【佐納先生】
「本校では、『ICTを活用した言語能力の育成』を研究テーマにして取り組んでいます。そこで、本時では、クラス全員に発表する機会を設けました。発表を通じて、知識の定着や表現力の向上を図るとともに、他者の様々な考えを聞くことで、深い学びにつなげようと考えています。
以前は、授業中に生徒が書いたものを確認できるのは、せいぜい5〜6人が限度でした。ICTを活用する今では、授業中にクラス全員の考えをつかめるようになりましたし、生徒同士の共有も容易になりました」

4.生徒3人が全体発表(10分)

「3人に全体発表をしてもらいますが、我こそはという人はいる?」という佐納先生の投げかけに、1人の生徒が挙手。天武天皇をキーパーソンに挙げ、選んだ理由は「日本の律令制の基礎を築いたこと」「都の造営や歴史書の編纂を進めたこと」と説明した。ここでも聞く側の生徒は、プリントに発表の要点をメモ書きしていった。2人目は、佐納先生がカードを事前にチェックして、クラス全員に共有したいと思った生徒を指名。「乙巳の変」で暗殺された蘇我入鹿をキーパーソンに選び、「大化の改新のきっかけをつくったこと」を理由に挙げた。3人目は、キーパーソンに挙げた生徒が最も多かった聖徳太子を選んだ生徒の中から、うまくまとめられていた生徒を指名。「冠位十二階や十七条憲法の制定したこと」などを選んだ理由に挙げた。

【佐納先生】
「多くの生徒が英雄的な人物を選ぶ中、悪役のイメージが強い蘇我入鹿を選んだ生徒がいたことに驚きました。本人の事績ではなく、大化の改新という変革のきっかけをつくったことに着目した視点は、ぜひクラス全員に知ってほしいと考えて指名しました。実は、普段はおとなしい生徒なのですが、全体に発表する場を設けたことで自信を持ってくれて、今後は積極的に発言していくようになることを期待しています」

5.キーパーソンを最終投票(5分)

生徒は、各自でメモ書きしたプリントを基に、改めて考えた「最も重要なキーパーソン」を集計ソフト「Googleフォーム」を使って投票。自動集計され、刻々と変わる結果がリアルタイムで円グラフに反映されていく。生徒は、数値が次々と変わる円グラフを食い入るように見つめた。最終的には、聖徳太子を選んだ生徒がさらに増え、クラス全体の約4分の3を占めて1位となった。2位は蘇我入鹿、天智天皇と天武天皇の兄弟が同数で3位となり、おおむね全体発表を行った生徒の意見が反映される結果となった。

【佐納先生】
「グループ内での発表では、選んだ人物が重複しないようにメンバーを調整する予定でしたが、他のクラスでは、比較的意見が分かれたため、このクラスではグループの調整をしませんでした。最終投票で聖徳太子を選ぶ生徒がさらに増えたのは、他者のカードや発表を見聞きしたことで、重要人物としての説得力が増したのだと思います。」

6.振り返り(5分)

最後はプリントに「本時のまとめ」と「振り返り」として、自分が選んだキーパーソン、事績、選んだ理由を<クラゲチャート>に書き込み、佐納先生に提出して授業は終了した。

【佐納先生】
「授業の振り返りでは、通常、本時の学習内容を言語化しています。今回はカードに学習内容をまとめること自体がメインの活動だったので、振り返りでは<クラゲチャート>を使ってカードの内容を要約する活動にしました。提出されたプリントの中でよい意見があれば、次の授業でクラス全員に共有する予定です」

今回の授業では、ICTを活用することで、クラス全員のキーパーソンを選んだ理由を知ることができ、自分の考えを改めて再検討するという「対話的な学び」が、生徒の思考を深めている様子がうかがえた。また、佐納先生も、授業中にクラス全員のカードを見ることができたため、少数意見を全員に広めることができた。一方で、振り返りでは、紙のプリントを使って自分の手で書くことで、思考を整理する場を設けた。同校では、ICTと紙の両方のよさを意識して、目的に応じて使い分ける授業づくりを今後も進めていく考えだ。

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