学校教育情報誌『VIEW next』『VIEW next』TOPへ

  • 教育委員会向け
  • 誌面連動
  • 【誌面連動】『VIEW next』教育委員会版 2022年度 Vol.1

探究コーディネーターの支援で、中1から個人別に探究的な学習に取り組む
~宮城県 気仙沼(けせんぬま)市立階上(はしかみ)中学校

2022/05/27 18:00

宮城県気仙沼市立階上中学校では、2021 年度から全学年で、生徒各自が興味・関心のある分野と防災とをかけ合わせて「防災×●●」という課題を設定し、個人で取り組む探究的な学習(以下、探究学習)を行っています(気仙沼市における探究学習の取り組みは、本誌P.9~12に掲載)。
本記事では、同校の探究学習の内容を詳しくご紹介します。

▼本誌記事も先行公開します。こちら(↓)をご覧ください。

PDFダウンロード

学校概要

開校:1947(昭和22)年
校長:田中謙先生
生徒数:104人
学級数:4学級
教員数: 18人

お話を伺った方

教頭 
藤山 篤(とうやま・あつし)先生

同市立松岩中学校の教頭から、2021年度より同校に赴任

探究学習コーディネーター 
加藤 拓馬(かとう・たくま)氏

地域の活性化を手がける、一般社団法人まるオフィスの代表理事。

※学校概要・人物プロフィールは、取材時[2022年3月]のものです

1.自分の生き方に結びつけられるよう、
  個人で課題を設定する探究学習に

風光明媚な三陸海岸に面する気仙沼市階上地区。古くから津波の被害に遭ってきた同地区に位置する気仙沼市立階上中学校は、東日本大震災の前から防災教育に力を入れてきた。現在は、自治体との合同防災訓練や、中学生のみでの避難所初期設営訓練、中学生による小学校での防災啓発活動などを実施。生徒は、防災の意識を高く持ち、取り組んでいる。

「総合的な学習の時間」(以下、総合学習)でも、防災をテーマにした探究学習を行ってきた。以前は、どの学年もグループによる取り組みだったが、2021年度に気仙沼市教育委員会から全市立小・中学校に探究学習コーディネーター(以下、コーディネーター)が派遣されることになったのと同時に、生徒一人ひとりが課題を設定して取り組む探究学習(以下、個人探究)を、全学年で実施することにした。藤山篤教頭は、グループによる探究から個人探究とした意図を次のように説明する。

「総合学習は、そのねらいに、生徒が自分の生き方を考えられるようになることや、各教科等の見方・考え方を総合的に働かせることなどが掲げられています。学びが生徒個人に帰結することになるので、探究学習も個人で取り組む方が望ましいと考えていました。教員とコーディネーターの複数人体制であれば、生徒一人ひとりが個別に課題を立てて探究をしても支援が可能だと思い、全学年で個人探究に踏み切りました」

テーマは「防災×●●」。●●には、生徒一人ひとりが自分の関心のある分野をあてはめる。それまで学習を積み重ねてきた「防災」について、自分の関心のある分野を切り口にすれば、生徒が課題を見いだしやすくなると考えたからだ。

総合学習での探究学習の年間計画は、図1の通り。5月上旬の運動会終了後、5月下旬のガイダンスを皮切りに、社会環境の変化や課題設定の方法などを学んだ後、夏季休業前までに一人ひとりが課題を設定する。2学期からは、各自が設定した課題について、調べ学習やフィールドワークなどで探究を進め、10月末に中間発表会、12月上旬に防災学習発表会を行う。

授業は、3学年合同での実施とした。3年生が個人探究に取り組む姿を、1・2年生がロールモデルとできるようにするためだ。また、コーディネーターには、ほぼ毎授業での支援を依頼し、毎回2〜3人が参加した。

 ※階上中学校の提供資料を基に編集部で作成。

2.教員・コーディネーター・友人と対話をすることで
  考えを言語化し、課題を設定

個人探究において重視したのは、生徒一人ひとりの課題設定だ。
まず、これからの社会の変化を学ぶためにSociety5.0やSDGsに関する動画を視聴。陸前高田(りくぜんたかた)市・女川(おながわ)町の震災遺構訪問や、防災に詳しい大学准教授のオンライン講演によって、防災に関する知識を学ぶ場を設けた。

大学准教授による「防災×海」をテーマにしたオンライン講演では、地震の起こる仕組みを学んだ後、水深と津波の速度に関する実験を行い、実験結果から、津波の速度と沿岸への到達時間を計算して導き出した。実験では、引き起こされる津波に生徒は釘づけになり、津波の速度と到達時間を真剣に計算していた。

課題設定の授業では、体育館で、自身の関心を掘り下げていくワークショップを行った。
最初に、「階上の自慢」をテーマに、生徒3〜4人のグループで自由に話し合った。生徒は、小学校での総合学習で、地域のことに数多く触れてきていることから、コーディネーターは「小学校の時の総合学習を思い出してみよう」と呼びかけた。出された自慢は、グループごとにタブレット端末に入力し、そのデータを教員の端末に送信。教員は、それをスライドに映して、全員と共有した。その際、コーディネーターが気になった回答をピックアップし、その回答をしたグループに口頭で説明を加えてもらった。

次に、「階上をもっとよくするにはどうすればよいか」をテーマに、町に足りないと思うこと、課題に感じていることをグループで出し合った。それらもタブレット端末に入力。その後、校長や教頭も含めた全教員と、コーディネーター3人による、14のブースのいずれかに端末を見せに行った。
各グループからは、「街灯が少なくて怖い」「子どもたちの遊ぶ場所が少ない」「防潮堤が建てられていいけれど、海が見えない」など、様々な意見が上がった。教員とコーディネーターは、「いいね」「面白いね」と、まずは肯定をした上で、「なぜそう思ったの?」と問い返し、生徒が考えを掘り下げられるようにした(写真1)。

最後に、ワークショップで気づいたことを各自がタブレット端末に入力し、自身の考えを振り返った。

▲写真1 生徒は、教員・コーディネーターと対話をすることで「自分が何に関心があるのか」を掘り下げていく

 

1学期最後の総合学習の授業では、再び体育館に全校生徒が集まり、各自が立てた課題を見せ合いながら、課題を練り上げていくワークショップを行った。
生徒は、自分が関心のあるテーマを付せんに書いて教員に提出。教員は、生徒が書いた付せんを「伝承」「海洋ゴミ」「生物」「環境」「食」「津波」などのカテゴリーに分けて模造紙に貼った。生徒は、自分が書いたテーマがどのカテゴリーに該当するのか、他の生徒がどのようなテーマを出しているのかを見ながら、友人同士で話し合い、課題を具体化していった(写真2)。

さらに、教員とコーディネーターによる、個別の課題設定相談会も実施。1年生の多くが課題設定に苦戦しており、自身の関心から「課題をどう設定すればよいか」を相談していた。一方、2・3年生は大半の生徒が課題を設定できており、相談会では、これから調べたいこと、やってみたいことについて、教員やコーディネーターに相談していた。

「コーディネーターは20~30代前半なので、生徒は、自分と年齢が近いコーディネーターとは話しやすいようです。また、『海外から来た技能実習生は、避難訓練をしているのだろうか?』と言う生徒には、『じゃあ、外国人が働いている会社の人と話をしてみる?』と、すぐに関連する地域の人を紹介してくれます。地域における人脈が広く、地域の人からの信頼も厚いコーディネーターの存在は、生徒が自身の関心から探究を深めていく上での鍵となっていました」(藤山教頭)

▲写真2 自分と同じカテゴリーにある他の生徒のテーマを見ながら話し合うことで、思考を深めた。

 

夏季休業中には、コーディネーターが、市内の中学生を対象に探究学習相談会を3日間実施。「観光まちづくり」「環境問題」「人口減少対策/移住」をテーマにしたゲストへのヒアリング会や、コーディネーターが相談に乗る機会を用意した。

生徒は、コーディネーターとの対話を通じて、自分が取り組みたい課題を具体化していった。例えば、歴史が好きで、家族と神社巡りをすると話す生徒には、神社は代々防災の拠点であることや、御神輿を担ぐルートは避難路になっているらしいということをコーディネーターが伝えたところ、「防災×まち歩き」というアイデアが生徒から出てきた。ほかにも、絵本や歌、木碑などのキーワードが次々と挙がり、最終的には「まち歩きをしながら避難経路を知ってもらう」という課題を設定した。後日、実際に階上地区を歩くことにしたという。
(この生徒の例は、まるオフィスのサイトでも、漫画で詳しく紹介しています)
https://toi-story.com/stories/03/

「対話を通じて、自分の頭にあったものを言語化することで、生徒はどんどん考えを深めていき、それが課題設定につながります。授業の時間は限られていますが、そのような個別の対話を重視していきたいと思いました」(加藤氏)

3.学校内外で発表の機会を設け、探究の成果を積極的に発信

2学期からは、各自が設定した課題について、情報収集やアンケート調査、フィールドワークなどの探究活動を行った。その際、課題のカテゴリー別に学年縦割りで6つの班を作った。個人で活動に取り組みつつ、一緒にできる活動はグループで行うためだ。

「1年生の中には、9月に入っても課題を設定できていない生徒もいましたが、自分で課題を決めるまで生徒との対話を続けました。また、個人探究としましたが、探究活動では、課題の分野が似ている生徒同士で対話し、意見を出し合う、対話的な学びの場を設けました。他者の探究は、自分の探究を深める上で刺激になっていたようです」(藤山教頭)

10月下旬の中間発表会、11月の実践・まとめを経て、12月上旬には全生徒による防災学習発表会を実施。生徒は、探究活動を踏まえて考えた提言・提案を、プレゼンテーションソフトや模造紙、紙芝居など、それぞれ自由な形でまとめて発表した(写真3)。

持ち時間は、1人あたり発表8分間、質疑応答2分間と設定。学年縦割りの12班に分け、他クラス、他学年の発表を聴けるようにした。また、保護者にも参観を呼びかけたところ、生徒数とほぼ同じ100人近くもの参加があった。

「防災×まちづくり」で、「災害に強い持続可能なまちをつくるにはどうすればよいか?」と課題を設定した生徒は、宮城県女川町、仙台市、南三陸町、気仙沼市のまちづくりについて調べ、4つの自治体の類似点や相違点をまとめた。その結果から「市民協働による取り組みを行うと、災害に強いまちになるのではないか」と考察し、地域内のコミュニケーションの強化や、企業・自治体による防災会議の実施を提案。具体的な行動として、地域の人への挨拶、地域行事への参加を呼びかけたという。

▲写真3 防災学習発表会の様子。発表後には2分間の質疑応答があり、聴いていた生徒から質問や感想がよく出ていた。

 

同校は、校外で発表する機会も積極的に設けた。いずれもオンラインだが、2022年1月には、市内の小・中学校・高校の代表校が発表する「防災学習実践発表」、JICA主催の「ノンフォーマル教育の推進」、2月には、「全国海洋教育サミット」(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター,公益財団法人日本財団主催)に、学校の代表者2〜3人がそれぞれ参加。防災学習の取り組みと個人探究について発表し、参加者からの質問にも答えた。

「外部への発表経験は、思考力や表現力などの育成につながります。また、他者から認められることで、自己肯定感が高まっていきます」(藤山教頭)

4.教員数が少ないからこそ、
  コーディネーターには生徒のよき伴走者を期待

2021年度の文部科学省「全国学力・学習状況調査」において、同校の生徒は、「総合的な学習の時間では、自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいますか」の設問に、ほぼ全員が「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と回答し、個人探究が浸透している様子がうかがえた。

2021年度の個人探究の実践を踏まえ、2022年度は次のような計画を立てた。
1年生は生徒が課題設定をもっとしやすくなるよう、校区内の小学校が総合学習で取り上げている「スローフード」をテーマとして個人で課題を設定することとした。2年生は「防災の伝承」、3年生は「海と生きる」(世界を知って地域に生かす)をテーマに、2021年度と同様、「防災×●●」として各自の関心に応じて課題を個別に設定する。

ガイダンスは4月に早め、6月まではインプット期間として、大学教授や地域住民ら10人以上に講演を依頼した。そして、7月上旬には3学年合同の課題発表会を設定して、その時までに各自が個別の課題を設定できるようにする。夏季休業前には情報収集やフィールドワークをスタートさせることで、意欲的な生徒が夏季休業中にも探究活動に取り組めるようにする計画だ。

「生徒の様子を見ると、知識が十分でないために、思考が深まらない場面が見られました。そこで、2022年度は、講演やワークショップをさらに充実させ、知識を学ぶ場と自分の考えをアウトプットする場を設け、思考を深められるようにしようと考えました。本校は、1学年1学級の小規模校で、教員は18人です。コーディネーター派遣を積極的に活用して探究学習に入ってもらい、生徒のよき相談相手として、個人探究の伴走者になってくれることを期待しています」(藤山教頭)

Benesse High School Online|ベネッセハイスクールオンライン

ベネッセ教育総合研究所

Copyright ©Benesse Corporation. All rights reserved.